dream
□恋心
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「あれ?一松、お前今日も出掛けるの?」
玄関から出る瞬間、赤いパーカーの人物に声をかけられた。
「なんか最近毎日このくらいの時間に出掛けてるよな〜。なんか面白いことでもあった?」
「…別に」
平日の昼過ぎ。最近は毎日、とある公園に行くのが日課になっていた。
毎日同じ時間に出掛けるなんて社会人みたいなこと、確かに自分の柄じゃない。兄弟達に怪しまれるのも無理はない。しかも、
「あ、一松さん!こんにちは!」
「……、こんにちは」
毎日、女に会いに来てるなんて。
最初に会ったのは1週間くらい前。
ななしは最近この町に引っ越してきたばかりで、バイト終わりにこの公園で昼飯を食べようとしていたらしい。
ベンチに座って弁当を食べようとしていたら周りに猫が寄って来て、昼飯どころではなくなったところにちょうど僕が通りかかって、僕の周りに猫が集まって行ったおかげで助かった…とかなんとか。
友達もまだいないらしく、それから毎日バイト終わりにこの公園に昼飯を食べに来ている。
どうして僕まで毎日公園に来るようになったかというと、
『一松さんがいてくれてよかったです。一松さんがいなかったら私、ボッチ飯食べてるところでした』
そう、初日に言われたから。
『いてくれてよかった』なんて、今まで言われたことなんてなかった。だからきっと、そのときは浮かれてた。
友達が出来れば、もう公園に来ないかもしれないのに。
僕みたいなクズより、友達といるほうが楽しいに決まってる。
別に約束してる訳じゃないし。明日はもう来ないかもしれない。
そんな考えが2、3日前くらいから頭の中をぐるぐる巡って、吐き気がする。
いい加減考えるのもめんどくさい。
「けほっ…っ…すみません。それでですね、昨日はバイト帰りに…」
「……待って」
ふと、今日の彼女の様子に違和感を感じた。
なんだか喋ってる途中の咳や咳払いが多い。顔をよく見てみると、いつもより目が潤んでて、顔が赤い、気がする。
…そういえば、いつもならまず今日のバイトでの話をしてくるのに、今日は違ったような。
「今日、バイトは?」
「あ、えっと…。…今日は、バイトは休み、だったんです」
「……体調悪かったから?」
「は、い。で、でも!ピークは昨日の夜だったんで…!今は割と大丈夫です!マスクもしてますし、一松さんに移すようなことは」
「いや、そこは別に気にしてないから。それより何で公園に来たの、バイト帰りでもないのに」
「……一松さんに、会いに」
……は?
「今日、公園に来なかったら、もうあさってからは一松さんは来てくれないんじゃないかって思って…」
「……馬鹿じゃないの」
「!」
僕はベンチから立ち上がり、彼女の手を引いて、彼女にも立つように促す。
「体調悪いのに外出るとか、ほんと馬鹿」
さっきから心臓の音がうるさい。身体も熱い。こいつの熱が移ったのかもしれない。
本当に、ななしに会ってからの僕は普通じゃない。
そんなこと思いながら、彼女の手を引いて歩き出す。
「ちょっ、一松さん!どこに…」
「家まで送る」
「そんな、大丈夫です!わざわざ送ってもらわなくても」
「……。だって、あんたは俺に会いに来たんでしょ。体調悪いのに。わざわざ」
ニヤリと笑いながらそう言い返してやると、ななしは顔を真っ赤にして俯いた。
ーーああ、そうか。
この感情は、きっと。
「…体調、良くなったらまた公園に来なよ。俺はいつでもいるから。…暇だし」
そう言って、握っていた彼女の手に少し力を込めると、彼女は僕の手を握り返して来ながらありがとう、と小さく呟いた。