dream

□君の悲しみが癒えるその時まで、俺はこの手を離しはしない
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今、俺の目の前には悲しみに明け暮れ涙する一人の女がいる。

決して俺が泣かせた訳ではない。

俺達がいつも話をしていた橋の上で、彼女はーーななしは泣いていた。





ななしと知り合ったのも、この橋の上だった。

橋の上で一人たそがれる俺を見て、同じように傷心していると思って声をかけてきた、らしい。
恥ずかしがらなくていいんだぜカラ松ガールズ、と最初は言っていたものの、彼女の話を聞いているうちに、彼女の話が本当なのだと理解した。


ななしには彼氏がいた。
だが、ここ最近その彼氏と上手くいっていないのだと、よく俺に愚痴をこぼしていた。

『ふっ…俺ならお前のすべてを受け止めて、包み込んでやるぜ…』

『ふふ、相変わらず面白いんですね、カラ松さんって』

『そ、そうか…?』

みんな俺のことを痛いと言うが、彼女は俺のことを面白いと言う。
別に面白いことを言っているつもりはないのだが……彼女の笑顔を見ていると、そんなことどうでもよく思えた。





そんなななしが今、俺の前で泣いている。

彼氏と別れた、らしい。

愚痴や不満ばかりの彼氏と別れたなら悲しむことなんてないじゃないかとか、じゃあ俺と付き合えばいいとか……今はそんな言葉をかけてはいけないような気がした。

彼女が本当に悲しんでいるのがわかるから。見ているだけで俺まで苦しくなる。


だから俺は、


「…カラ松、さん?」


泣いてる彼女を、そっと抱きしめた。



「…すまない。こんなとき、なんて言葉をかければいいか、わからなくて…」


俺の腕の中で、ななしは大きく首を横に振った。俺が謝ることはない、と言いたいのだろう。
抱きしめたななしの身体は思いのほか小さくて、このままでは本当に悲しみに押し潰されてしまうんじゃないかとさえ思えて、彼女を抱きしめる腕に自然と力がこもった。

…ああ。俺なら、彼女をこんなに悲しませるようなことは、絶対にしないのに。
ましてや悲しむ彼女をほったらかしにするなんてこと。



「ごめ、なさ…カラ松さん、私…」

「…大丈夫だ。悲しいときは、気の済むまで泣いたらいい。お前は女の子なんだから。…落ち着くまで、俺が側に居るから」



そう言うと、彼女は身体を俺の胸に預けて泣き続けた。





これからは俺が君を守る、と。
次に彼女が顔を上げたら、そう告げよう。


そう心に決めて、泣きじゃくる彼女の頭をそっと撫でた。

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