dream

□優しい君と、意地悪な君と
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今日の一松はものすごく優しい。


「お腹すいてない?ほら、あーん」

「散歩、一緒に行く?…おいで」

「今日は汚れちゃったね…。ちょっと早いけど、一緒にお風呂入ろうか」



そんな甘い台詞を優しく微笑みながら言われる。
今も、私は一松に後ろから抱き締められた状態で頭を撫でられている。

なんだこれ、天国か。幸せすぎる。
こんな幸せがずっと続くなら、もういっそのこと一生猫のままでもいいかもしれない。

そう。吾輩は今、猫である。名前はななし。
デカパン博士に貰った薬の影響で猫になっている。



私と一松は、所謂恋人同士、だ。
でも、一松はいつもそっけなくて、私より猫に構ってばかりいる。
…もし私が猫に生まれていれば、一松にもっと構ってもらえていたのだろうか。

『ねぇ十四松。どうやったら人間から猫にジョブチェンジできるのかな…』

『デカパン博士にお願いすればできるよ!』

『…天才か…!』

そして先日十四松に教えてもらった通り、デカパン博士にお願いして猫になれる薬を貰ったという訳である。




「ただいまー。わ、一松兄さん、その猫どうしたの?」

帰宅したトド松が、一松の隣に座って私を覗き込んできた。

「…今日の朝、家の前で見つけた」

「へぇ〜。ふわふわしてて可愛いね!見た感じ野良猫じゃないよね、どこかの飼い猫かな?」

「たぶん、そうだと思う。…明日になったら、またこいつの家探しに行くつもり」


……その一言で、気が付いた。
今日、色んな場所を散歩して回ってたのは、猫である私の家を探してくれていたからなのだ、と。
それに気付いた途端、胸が締め付けられるような感覚に陥る。普段あまり触れることのない一松の優しさにどきりとすると同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「そっかー。頑張ってね、一松兄さん」

さてと、お風呂お風呂ー、と言いながら、トド松は部屋を出て行った。

…名残惜しいけど、私も帰ろう。
そう思い、私は離してほしいという意味合いを込めて、一松の腕の中で身じろぎをした。瞬間、

ぼふん!

という音と、白い煙と共に……私は元の姿に戻った。


「っ!」

「……!」

「………えっ?」


突然のことに呆然としていると、さっきからずっと同じ部屋に居たが言葉を発さず、鏡を見つめ続けていたカラ松と目が合った。そしてしばらく無言で見つめ合う。

…頼むから何かツッコんで、カラ松。
『ぇえっ!?何で猫がななしちゃんに!?』とチョロ松やおそ松ばりの声量でツッコんできて、お願いだから。元演劇部よ。

しかし私の思いはカラ松に届かなかったらしい。どうしてこういう時に限ってツッコミ役がいないんだと思っていると、背後からドスの効いた声が聞こえてきた。

「…おいクソ松。今すぐ部屋から出てけ…」

「…え?あ、ああ…わかった」

弟に追い出しを食らった可哀想なカラ松は、部屋を出る際可哀想なものを見る目で私を見ていた。
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