dream
□弟松とお正月
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「みかん!ななしちゃん!みかん剥いてー!」
正月。
年始のスペシャル番組を見ながら松野家のこたつでくつろいでいると、みかんのたくさん入った籠を持った十四松が、勢いよくこたつに入ってきた。
「こたつあったかー!」
「あ、僕もいるー。ななしちゃん、僕にも剥いて?」
私の返事を聞く前から、わくわく、にこにこしながら、十四松とトド松はみかんを剥いてもらうのを待っている。
…なんだこの可愛い生き物。本当に成人男性か。こんなの断れる訳がない。
しょうがないなぁ、とわざとらしく言いながら私はみかんを手にする。
「あ!僕、この一番おっきいみかんがいい!あとこのデベソのやつ!」
「一個にしときなよ、十四松兄さん。おそ松兄さんたちのも残しとかないと」
「デベソのやつは一松兄さんの!」
私がみかんを剥いている間も、十四松たちは賑やかだ。
今、こたつを囲んでいるのは私と十四松とトド松、そして一松の四人。おそ松とカラ松とチョロ松は出掛けている。
「はい、剥けたよ」
「ありがとーななしちゃん!はい!あーん!」
そう言って十四松は大きく口を開ける。
…普通その台詞は食べさせる側が言うものだけど、十四松の手は未だこたつに突っ込まれたままだ。みかんも私の手の中にある。
状況が理解出来ずにいると、
「ななしちゃん早く!みかんちょーだい!」
みかんを催促された。食べさせろ、という意味だったらしい。
ああ、ごめんね、と謝ってから、十四松の口にみかんを入れてあげる。
「あんまー!」
「あ!十四松兄さんずるーい!ななしちゃん、僕も」
そう言うとトド松は、あーん、と可愛らしく口を開ける。…可愛いけれども、十四松と違ってどことなくあざとい。
続いてトド松の口にもみかんを入れてあげる。
「うん!甘くておいしい。ありがとう、ななしちゃん」
「ふふ、どういたしまして」
「一松兄さんもほら、あーんして!」
十四時が一松にあーんを促す。…が、やはり十四松の手はこたつに突っ込まれたままなわけで。
「ななしちゃん、早く!」
やはり私があーんしろという事らしい。
一松は口を閉じたままだ。だけどその視線は、まじまじと私の手の中……みかんに注がれている。
「…あ、あーん…」
言いながら、一松の口元にみかんを運ぶ。十四松たちみたいに口を開けて待機してくれていないせいか、なんだか恥ずかしい。…これで一松に拒否されてしまったら更に恥ずかしい。
一松は口元のみかんを三秒ほど見つめめると、控えめに口を開けて、ぱくっと口にした。もぐもぐとゆっくりみかんを食べ、最後にごっくんと飲み込む。
また三秒ほど経った後、私の顔をちらりと見て、
「…もっといる」
そしてみかんに視線を戻す。…可愛すぎか!
私は続けて一松の口元にみかんを運んだ。すると、「僕もー!」「僕ももっとー」という声が左右から聞こえて、私は正月から幸せいっぱいな気分になるのであった。