dream

□恋人以上共犯者未満
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「あー…周りのリア充共みんな爆発すればいいのに」

「…今爆発したら俺らも爆発に巻き込まれるんじゃないの」

「大丈夫だよ、私らはリア充じゃないから。爆発に巻き込まれずに奇蹟的に助かるんだよ」

「まじか」


そんな下らない話をしながら、私と一松は人混みの中を歩く。
私達は別に恋人同士とか両思いだとか、そんな甘い関係ではない。所謂悪友、という奴だろうか。
今日もこうして街中のカップル共に悪態をつきながら、奴らに何か天罰でも下りますようにと初詣をしてきたところである。


「うわー、見てあのお兄さん。着物着てるのに洋風な帽子被ってますよ」

「日本男子の風上にも置けまへんなぁ」

「一松の兄さんを見習ってほしいぐらいやでぇ」

「ほんまやでぇ。ってそれは言いすぎやがな」


ちなみに今日は私の提案により、二人揃って着物を着て来ている。
最初こそ渋っていた一松だがばっちり着こなしていて、片手を着物の中に入れてる辺りも全くわざとらしさがなく、様になっている。なんだかんだで一松もノリノリである。




先程の洋風帽子野郎を目で追っていると、何やら人だかりが出来ている場所が目についた。

『着物カップルフォトコンテスト開催中!』
『優勝カップルにはお年玉5万円を贈呈』

と書かれた垂れ幕が掲げられている。


「…一松、見てあれ」

垂れ幕を指差すと一松は、ん、と短く返事をした後、一言。

「行くしかないね」

「そうだよねぇ、行くしか………えっ?」

クソ共がクソみたいなイベントやってるね、と言ってくると思っていたが、私の予想は大きく外れた。思わず立ち止まる。

「えっと…見に行くってこと?」

「賞金獲りに行くってこと」

「…どうしたの一松さん。今日はほんとノリノリですね」

「まあね」

…冗談に決まってるでしょ、という台詞がいつまで経っても聞こえてこない。
ここまで来るともう冗談でなく一松が本気で言っているのだとわかった。


「カップルでもない俺らが参加して、カップルでもない俺らがカップル差し置いて優勝するとか、企画ぶち壊してる感じがして楽しくない?」

にやり、と既に楽しそうに笑う一松。
…ああ、本当に、この人は。

「…ほんとクズだよね、一松って」

「お互い様でしょ。ななしだって今、ゲスい顔してる」

「まあね。…でも優勝は難しいんじゃない?私着物似合ってないし」

「似合ってるよ、すごく。可愛い」

「ぇ」


行くよ、一松は私の手を掴み、垂れ幕の掲げてある方へと歩き出した。掴まれた手が熱い。
ふと横を見ると、先程の洋風帽子野郎が彼女と思しき人と突っ立って「参加してみようよー」「えーどうしよー」と未だ相談し合っていた。
対して一松は、最早微塵の迷いもなく真っ直ぐに歩を進める。

…ああ。そんな急に可愛いなんて言われて、そんなやたらと漢らしい後ろ姿なんて見せられたら。変な気持ちになってしまうじゃないか。


「……。周りの人から見たら、私達もカップルに見えるのかな…」

「…そんな生易しいもんじゃないでしょ、俺らの関係は」

一松は前を向いたまま話し続ける。


「今まで一緒に散々ひどいことして来てさ。もはや共犯者。…この先、一人だけ仕事見つけて彼氏作って子供産んで……真っ当な人生送ろうとしたって、そうはいかないから」

「私が真っ当な人生なんて送れるはずないでしょ。…それに、漢気溢れる一松さんが側に居てくれれば、今は彼氏とかいらないかな」

「……ほんと。つくづく馬鹿で、クズだよね。ななしも」



そう言って振り返った一松は、いつものように、楽しそうににやりと笑うのだった。

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