dream
□親睦を深める・リベンジ
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「フッ…今日は風が騒がしいな…」
公園のベンチに二人で腰掛けて先程テイクアウトしてきたスタバァのラテを飲んでいると、カラ松が何処かで聞いたことのあるようなフレーズを呟いた。
「ななし、寒くないか?寒いなら俺のコートを貸そう」
そう言ってカラ松は、私が返事をするより先に自らが着ているコートを脱ぎ始める。
「だ、大丈夫!大丈夫だから…!」
ありがとうございます喜んで!と、普段の私ならコートを受け取り、カラ松の香水と体臭と温もりの残るコートに顔を埋めて悦に浸るところなのだが。
今はぐっと我慢して、カラ松からの誘惑を断る。
先日、私はカラ松と親睦を深める為のデートを決行した。それをきっかけに二人の距離は一気に近付き、互いに惹かれ合った私達はそのまま付き合うことに……なるはずだったのだが、途中で私が興奮のあまり失神してしまったせいで、全く親睦を深めることが出来なった。
今日はそのリベンジという訳である。今度こそ失敗する訳にはいかない。
ここでまた失神してしまわないように、今日だけは慎重に、節度を持って行動しなければ。
「…カラ松。その、今日は誘ってくれて、本当にありがとう。カラ松から誘ってもらえて、凄く嬉しかった」
そう。しかも今日のデートは、カラ松からのお誘いだった。
それだけでもう既にかなりドキドキしてしまっている。
「ふっ…喜ぶのはまだ早いぞ?カラ松ガール」
そう言ってカラ松は、おもむろにコートのポケットから何かを取り出した。
カラ松の手の平サイズのそれは、青くて綺麗なラッピングに包まれている。
「俺からななしへ、ささやかなサプライズプレゼントだ。受け取ってくれ」
「……え…」
突然のサプライズに、頭が付いていけない。
驚いて動けずにいると、カラ松は私の手を取り、私の手の上にプレゼントをそっと乗せた。そしてラッピングの紐を摘んで、ほら、と私にプレゼントを開けるよう促す。
ラッピングに包まれていた箱を開けると、仄かに甘い香りがした。
箱の中には、ハート形の可愛い入れ物が入っていた。
「…香水…?」
「ああ。この間、お揃いの香水を一緒に買いに行こうと言って、結局行くことが出来なかったからな」
お揃いの香水。ということは、これはカラ松が付けているブランドのレディースの香水なのだろうか。カラ松のものとは大分違うがする。だけど、匂い自体は馴染みやすい良い匂いだ。
「香りはどうだ?キツくないか…?」
先程までと違って、カラ松が少し不安気げに尋ねてくる。
「うん…良い香り。私、この匂い好きだよ」
素直な感想を伝えると、カラ松はほっとしたように破顔した。
「そ、そうか!よかった…!実は、この香水は俺が使っているものとは違うんだ。店に行って確かめてみたんだが…レディースのほうは少々香りがきつくてな。ななしは香水を使ったことがないと言っていたから、初めてでも使い易そうな…それでいてななしに似合いそうなものを、俺なりに選んで来たんだ」
素の笑顔で話すカラ松は、とても嬉しそうだ。自分の選んだものを私が気に入って、心底ほっとしているのだろう。
…ああ。嬉しいのは私のほうなのに。
嬉しい、ありがとう、大好き。カラ松に伝えなければいけない、伝えたい言葉がたくさんあるのに、言葉か出てこない。
カラ松が私の為に、私に似合うものを選んでくれたなんて。これ以上嬉しいことはない。
それなのに、だんだんとカラ松の笑顔が、視界が滲んでいく。
「!…ななし…?」
「ご、ごめ……嬉しくて…」
汚い泣き顔を見られたくなくて、カラ松から顔を背ける。
「あり、がとう…カラ松…」
それだけをなんとか震える声で絞り出す。
するとカラ松が、いつもよりも幾分優しくフッと笑うのが聞こえた。
「…嬉しいときは笑うものだろう?カラ松ガール。…お前には笑顔が一番似合っている」
そう言ってカラ松は私の顔に触れる。
顎を持ち上げられ、カラ松と再び目が合った。
そしてカラ松の顔がどんどん近づいて来て……涙で濡れた頬に口付けられた瞬間。
もうこのまま死んでも悔いはないかもしれないと思いながら、私は再び意識を手離した。