dream

□優しさに付け入る
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「今日も疲れたな…」


隣で梅酒を飲んでいたななしが、呟いた。

「てやんでぃバーローチクショー!年が明けたばっかりだってのに、なに弱気になってんだよこんチキショー。おい一松、ななしを労ってやんな!」

「……なんで俺」

「てやんでえ!お前がななしを労ってやらねぇで、誰がななしを労ってやるってんだバーロー」

「チビ太!……梅酒追加」

ななしは顔を真っ赤にしてチビ太に梅酒を頼む。
チビ太は梅酒の準備をしながら、クソ松みたいなドヤ顔で僕に目配せしてくる。



ななしは最近、新しい仕事を始めたらしい。前より給料がよくて、前より忙しい仕事。残業もたくさんあって、よく仕事帰りにチビ太の屋台に寄っては愚痴を零して帰るらしい。
全部、数日前にチビ太から聞いて知った話。社会人になって、ななしが働き始めてから、ななしとは暫く会ってなかった。
今日こうして二人で酒を飲んでるのも、チビ太に誘われたからだった。

ななしとは昔からたまに一緒に遊んだりしてて、他に友達がいない僕は当然のようにななしを好きになった。いつだったかななしも僕のことを好きだと言ってくれて、本当に嬉しかったのを今でも覚えてる。だけど、それももう昔の話。
ななしはそんなこととっくに忘れて、立派な社会人になってる。過去のことをいつまでも引きずってるゴミクズニートの僕とはもう、住んでる世界が違う。

そう思ってた。チビ太から話を聞くまでは。

『まったく、お前は幸せもんだな一松!ななしにあんなに想ってもらえてよ!…惚れた男を養う為に頑張って働くなんて、いじらしい話じゃねぇかこんチクショー』




「……ななし」

いい具合に酔いが回ってきた頃、僕はななしに話しかけた。

「チビ太から聞いたんだけど。…俺を養う為に働いてるって本当なの」

「え」

チビ太がお前いきなり、と言うのが聞こえた気がした。だけど僕には回りくどい聞き方なんてできない。
ななしの耳が一気に赤くなる。恥ずかしいときとか照れたとき、ななしはすぐ耳が赤くなる。そこは昔と変わってない。

「……、うん…」

ななしは俯いて返事をした。
俯いたって、真っ赤な耳は丸見えのままなのに。

「なんで先に俺に言ってくれなかったの」

チビ太からじゃなくて、ななしから直接聞きたかった。

「それは、」

「なんで一言言ってくれなかったの。何の連絡もなしにいなくなって……ななしはもう俺のことなんて、どうでもいいんだと思ってた」

酒の力っていうのは凄いと思う。
普段は言えないことでも、簡単に言える。


「…ごめん、一松」

こんなの僕のわがままだ。ななしが謝ることなんてない。だけどどこまでも優しいななしは、申し訳なさそうに僕に謝る。
……馬鹿だよね、相変わらず。そんなだから、僕みたいなのに付け入られるんだよ。


「…謝るより、約束してよ」

僕はななしの手を取って、ななしの小指と自分の小指を絡ませた。


「もう離れないで。ずっと一緒にいて。…俺みたいなクズ、養おうなんて物好きはななししかいないんだから」


そうして僕はまた、ななしの優しさに付け入る。
そしてななしはまた、そんな僕に優しい笑顔を向けてくれるのだった。

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