dream
□依存する
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お願いだから、僕から離れていかないで。
言葉に出さない代わりに、ななしに僕の気持ちが伝わるくらい、強く抱き締めるように縋り付く。
『ななしが、いなくなるのは、嫌。考えるだけで、苦しい。怖い』
僕が今まで何度も飲み込んできた言葉を、ななしに言われて堪らない気持ちになった。
いつも悪夢にうなされて目が覚めていた。ななしがいなくなる夢。
こんな僕のことを好きだと言ってくれる奴なんて、ななししかいない。だから僕にはななししかいない。だけど、ななしには僕じゃなくたって、他にもっとイイ人がいるはずだ。こんなクズと違ってね。だから、いつななしが離れていったって不思議じゃない。
そう、思ってた。
腕の中のななしが小さく咳き込むのが聞こえて、腕の力を少しだけ緩める。だけど離しはしない。
「……苦しかった?」
「ううん、大丈夫」
ななしも、僕の服を掴んだまま離そうとはしない。
……ねぇ、期待してもいいの?
ななしも僕と同じ夢を見て、僕と同じことを考えたの?
離れたくない、離したくない。これからもずっと僕を見て、余所見なんてしないで。ずっと一緒にいてよ、ねぇ。
「……ななしがいなくなるのは、俺も、嫌だ」
突き離されるのが怖くて今まで言えなかったことを、初めて口にした。
緊張と期待と不安で、鼓動が早まる。
きっとななしにも聞こえてる。喉が渇いて、唾を飲み込む。
「…じゃあ、ずっと一緒にいてくれる?離れていかない?」
「いかない」
「絶対?」
「絶対。離れないよ、俺は。……離れていくとしたら、ななしのほうでしょ」
「離れないよ、私も。…こんなに好きなのに、離れられるわけない」
思わず腕の力が緩んだ。見下ろすと、涙で濡れた顔で、心底幸せそうな顔でななしは笑っていた。
……卑怯だ、そんなの。
「…後悔しても、もう遅いから」
そうして僕はまた、緩んだ口元を隠すように、ななしを抱き締めた。
ああ、これからはもう、悪い夢を見なくて済みそうだ。