dream

□受話器越しの愛情表現
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私は今、人生最大の後悔をしていた。

昨日、カラ松を家に招いて手料理を振舞った。料理の出来は上々、カラ松も褒めてくれて、初めてカラ松からの好意も向けられた。
単純に考えば、二人の関係は十分に進展したと言える。しかし、だ。カラ松が帰った後、その日の会話を思い返して、はたと気付いた。


『ななしはいいお嫁さんになれるな』

『ご飯というのは、一人で食べるより、誰かと一緒に食べるほうがおいしいんだ』


それらのカラ松の言葉に対して、『じゃあお嫁さんにしてくれる?』『これから毎日一緒に食べよう』などと返答していれば、更に親睦を深めることが出来ていたのではないか。
そして目が覚めてからもずっとその事が頭から離れず、日曜の朝から布団の中でゴロゴロと自責の念に駆られていた。



時刻は午前10時頃、唐突にスマホの着信音が部屋に鳴り響いた。
手に取り画面を見ると、《松野家》と表示されていた。松野家の固定電話からだ。

「…っ!」

カラ松、だろうか。
昨晩からひたすらカラ松のことばかり考えていただけに、なんだか少し恥ずかしい。いや、固定電話なのでそれ以外の誰かという可能性もあるのだが。やはりどうしても期待してしまう。


「…はい、もしもし」

ずっと横になっていたせいで、少し掠れた声が出た。

『……ななし?』

期待していた声が聞こえてきて、心臓が跳ねる。

「カラ松…!」

『フッ……おはよう。目が覚めたか?眠り姫。…まだ微睡みの中にいるような声だな』

そして唐突の目覚ましボイスが直接耳に響く。少し離れたところから『イッタイよねぇ!』と誰かが突っ込む声が聞こえた気がした。
……これはやばい。カラ松は普段からいい声だけど、電話越しだとそれが直接耳元で、しかも吐息や息継ぎも鮮明に聞こえてくる訳で。正直やばい。
黙り込んでいると、不思議に思ったのであろうカラ松に再び名前を呼ばれた。


「ご、ごめん!その、突然でびっくりして……。どうかしたの?」

『ふっ……理由なんてないさ。ただ、あえて言うのなら……ななしの声が恋しくなった』

「ふぐぅ……!」

これ以上ない程かっこつけた声で甘い台詞を囁かれて思わず奇声が漏れる。
なんなんだろうこれは。何のご褒美だろう。それとも夢の続きなのか。それにしては耳が幸せすぎる。
悶えていると、『はいはい、ちょっと電話変わってカラ松兄さん。話進まないよ』と聞こえてきたかと思うと、

『おはよう、ななしちゃん。トド松だよ』

今度ははっきりとトド松の声がスマホから聞こえてきた。


『ごめんね、朝早くから。実は、母さんがななしちゃんにご飯食べに来ないかって言っててさ。今晩』

「えっ…お義母さんが?」

『そう。昨日、カラ松兄さんがななしちゃんの家でご馳走になったんでしょ?そのお礼にって』

「そんな、お礼なんて、」

『まあ、お礼っていうよりただななしちゃんに会いたいみたいだったから、気にせずおいでよ。僕も久しぶりにななしちゃんに会いたいな。ね?いいでしょ?』

トッティ!とカラ松の声が微かに聞こえたかと思えば、


『……ふっ。そういう訳だ』

再びカラ松に電話が変わった。

『まぁ、用事があるなら無理にとは言わないが……』

「ううん、大丈夫!行かせてもらうよ」


今日は元々予定は入れていない。そして何より、

「……また、カラ松に会えるのは、嬉しいし。……電話も、嬉しかった」

今日は、ちゃんとはっきりと言葉にして伝えた。もうあんな後悔をするのは御免だ。
そしてつかの間の沈黙の後、


『……ああ。俺も嬉しい』


カラ松の優しげな声が返ってきて、幸せな気分に包まれた。

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