dream
□溢れる想いで寂しさを埋めて
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「一松はさ、なんでななしちゃんと付き合わないの?」
最近兄弟達によく言われる台詞。
ななしは、何ヶ月か前に近所に引っ越して来た女の子だ。
歳も僕達と同じくらい。最初は緊張して喋れなかったけど、猫好きという共通点もあって、まあ、それなりに仲良くなることは出来た。と、思ってた。
だけど仲良くなったと思い始めた途端、ななしは急によそよそしくなった。しかも僕にだけ。他の兄弟達とは普通に喋ったり遊んだりするくせに、僕に対してだけあからさまに態度が違う。用がない限り話しかけてこないし、目が合ってもすぐに逸らされる。
……ああ、僕みたいなクズとはもう関わりたくないってことですか、そうですか。当然だよね、こんな生きる気力のないゴミ、関わる価値もない。
「ななしちゃんって絶対、一松のこと好きだよね!一松に対してだけ明らかに態度違うし。お兄ちゃん嫉妬しちゃうよ〜」
そんな訳、ない。
そもそもみんな童貞なのに、女の子の気持ちとかわかるはずない。みんなで僕をからかってるに違いない。期待したって、後で痛い目見るだけだ。
そう、思ってた。
そう思うように、していた。
……それなのに。
「……なに、この状況…」
家に帰ると、NAME1##がソファーで寝ていた。
パーカーを握りしめたまま。紫色の、僕のパーカーを。
「……っ、」
コンビニで買ってきた漫画雑誌を落としそうになって、慌てて抱え直す。
…なにこれ、どういう状況。なんでななしが、僕のパーカーを握りしめて寝てるの。
「ん……」
「!」
急にななしが身じろぎをして、思わず身を屈める。
…いや、なんで僕がこそこそしなきゃいけないの。ここ僕ん家なのに。
そう思い直して、ソファーの背もたれのほうを向いて寝ているななしの顔を、そっと上から覗き込む。
少しだけ目が開いてる。まだ眠いのか、何度か瞬きをした後、目を閉じると再び身じろぎをして眠る体勢に入る。…いや、人ん家でどんだけ寝るつもりなの。
紫色のパーカーを抱き締めて、顔を埋めて、大きく息を吸う。はぁ、と息を吐き出したかと思うと、
「…一松……」
「……っ!」
名前を呼ばれて、今度こそ雑誌を床に落とした。
ななしがソファーから飛び上がって振り返る。久しぶりに、目が合った。
「な……一松……なんで……」
「…いや、ここ、俺の家だし。……ななしのほうこそ、何してんの」
まあ、見てたからだいたいわかるけど。でもあえて聞いてみる。
ななしの顔がみるみる赤くなり、視線を逸らされた。えっと、その、とかなんとか言ってる間も、僕のパーカーを離さずずっと抱き締めたままでいる。
「…ななしは俺が嫌いなんじゃなかったの」
「…ぇ……」
「最近ずっと、避けられてたから……僕のことなんてもう、関わりたくないくらい嫌いなんだと思ってた」
「ち、違う!嫌いなわけない…!」
「……じゃあ、何」
さっきから心臓の音がうるさい。
……嫌いな奴のパーカーなんて握りしめて寝る訳ないし、ましてや、匂いを嗅いで名前を呼ぶなんて事、嫌いならするはずない。そのくらい僕でもわかる。
……つまり、そういう事だ。だけど、ちゃんとななしの口からも直接聞きたい。
「…ねぇ、教えてよ」
「……」
ななしは俯いたまま応えない。
僕はななしの隣に座ると、なるべく落ち着いた声で再び聞いた。
「俺のこと、嫌い?」
「…嫌いじゃ、ない」
「……。……じゃあ、好き?」
「………………すき……っ、」
聞こえるか聞こえないかくらいのななしの言葉を聞いた途端、ほとんど衝動的に行動してた。
だって、僕だってずっと、本当はななしが好きだった。
今までの寂しさを埋めるように、僕の気持ちが全部ななし伝わるように、キスをした。