dream

□尊い存在
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「はいななしちゃん、お醤油」

「あ、ありがとうトッティ」

「ななしちゃん!これもどーぞ!トト子ちゃん家の魚!」

「ありがとう、十四松」


お義母さん……松代さんに誘われて、私は今、松野家の夕飯をよばれてる。

私と六つ子の七人でちゃぶ台を囲んで、私の左側にはトド松が、右側には十四松が座っている。カラ松は私から見て右斜め前に座っている。
私はてっきりカラ松の隣に座るものだとばかり思っていたが、部屋に入ってから促されたのはトド松と十四松の間だった。最初は少し戸惑ったものの、二人とも私に気を遣ってくれたり明るく話し掛けてくれたりしたおかげで、だんだんその場に馴染んでいった。むしろどこか懐かしささえ感じる。昔、クラスメイトと他愛ない話をしながら、給食を食べていた頃の感覚に似ている。


ふとカラ松のほうを見ると、カラ松は隣の赤いパーカー……おそ松と何か話をしているようだった。
基本的に常にカッコつけた笑みを浮かべているカラ松だが、今は笑ってはいない。きっとおそ松と接するときのカラ松は、本当に素の姿なのだろう。あまり見たことのない凛々しいカラ松の表情に、思わず目を奪われる。十四松の声が大きいせいか、おそ松の声を聞き取る為に少しおそ松のほうに顔を寄せる。姿勢を正して、いつも私に見せる笑顔とは少し違う笑顔で一言二言おそ松に返事をした後、味噌汁を啜る。一挙一動全てが凛々しい。



「……ななしちゃん、カラ松兄さんに見惚れすぎ」

呆れたような声でトッティに指摘され、はっと我に返る。……改めて他人に指摘されると少し恥ずかしい。

「ところで、最近カラ松兄さんとはどうなの?上手くいってる?」

声を潜めて、だけどどこか楽しそうな声音で、まるで女子トークをするかのようにトッティが聞いてきた。

「えっ、と……どうなのかな。…前よりは、カラ松の好感度は上がった気がするけど……」

「……うん。だってななしちゃん、ちょっと前まではカラ松兄さんの好感度上げる気なかったよね。ほとんどストーカーっていうか。好感度ゼロの状態でいきなりエンディング迎えようとしてたもんね」

……トッティの言う通りである。
カラ松を好きになったあの日以来、私はカラ松をひたすら追い回してきた。とりあえず既成事実を作ってしまえば、親睦など後でゆっくり深めればいいと思っていた。

「ななしちゃんの気持ちはどうなの?痛すぎてカラ松兄さんのこと嫌いになってない?」

「まさか!……むしろ前より好きになりすぎて辛い。尊い」

「いや尊いって何、尊ぶような存在じゃないからね?ただの痛いニートだから!」

少し声を荒げてツッコミを入れたトッティが、こほんと咳払いをする。


「……けど、まぁ……うん。今日ななしちゃんを家に呼ぼうってなったのは、実はカラ松兄さんが最初に言った一言がきっかけなんだけどね」

「……え?」

「『ななしは一人暮らしで、いつも一人でご飯を食べているから、孤独に慣れてしまってる。だからみんなでご飯を食べる楽しさを教えてやりたいんだ』って。それを聞いた母さんが、じゃあ昨日のお礼も兼ねて家に呼ぼうって言い出したんだ」


それを聞いた途端、心臓を掴まれたような感覚に陥った。
この感覚は以前にも感じたことがある。……カラ松にプレゼントを貰ったときだ。一緒にいないときでも、カラ松が私のことを考えてくれていたなんて、胸が苦しくなるほど嬉しい。

思わずカラ松に視線を向けると、今度はこちらを向いていたカラ松とバッチリ目が合った。
逸らせずに見つめたままでいると、カラ松はまるで私の心を見透かしたかのように、優しげに、少し照れたように微笑んでくれて。

私は堪らず俯くことしか出来なかった。

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