dream
□理想の恋人
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仕事で上司に怒られた。
それなりに仲良くしていた同僚に、実は陰口を叩かれていた。
自分は価値のないゴミなんだって事、自分でもわかってる。だから期待なんてしないでくださいよ。勝手に期待して、勝手に幻滅するようなことは止めて。
仕事なんて所詮、金を得る為の手段でしかないんだから。目標も糞もない。与えられた仕事ならちゃんとこなしてるのに、なんでそれ以上を求めて来るの。ああ、働きたくない。そもそも働くなんて行為自体、屑の私には向いてない。
私の部屋で一松と二人で酒を飲みながら、そんな思いの丈を、全部一松に吐き出した。一松なら、わかってくれる気がした。
一松は隣で冷酒を飲みながら、肯定するでもなく、否定するでもなく、黙って私の話を聞いてくれた。
「……なんか、ななしの話聞いてるとさ、」
ぽつりと一松が呟く。
「やっぱり俺には働くなんて無理だな……って思う。そんな生き地獄味わいたくない」
「私も無理だよ。……一松がいなかったら、きっと今頃死んでる」
元々友達の少ない私には、日頃の愚痴や悩みを零したり、辛い時に傍にいてくれる人などいなかった。だから、一松と付き合い出してからは、すっかり恋人である一松に依存しきってしまっている。
それがきっと、一松も満更ではないのだろう。一松も友達のいないニートの為、今日のように私が会いたいと言えば、必ず会いに来てくれる。
一松はひとしきり私の話を聞くと、
「よーしよし……」
そう言って猫を撫でるように、私の頭を撫でてくれた。堪らず一松の胸に顔を埋めると、そのまま抱き締められ、頭を撫で続けられる。
一松の温もりを感じるだけで、先程までの苛立ちが嘘のように収まって、幸福感で満たされていく。
「……ななしは俺がいなかったら死んじゃうんだ?」
「死んじゃう。……孤独死する」
顔は見えないけど、一松が微かに笑った気配がした。かと思うと、両手で強く抱き締められた。耳元で「かわいいよ、お前」と囁かれ、耳にキスをされ、ぴくりと身体が震えた。
「……一松は?」
一松の胸に顔を埋めたまま、問いかける。
「私がいなかったら、一松はどうしてた?…兄弟がいるから平気?」
「……本気で聞いてるの、それ」
「うん」
私は一松に縋り付くように、一松のパーカーを握り締める。
……一松の応えはわかってる。だけど、今日みたいな日くらいは、一松の口から直接聞きたい。
顔を上げて一松の顔を見ると、いつもの気だるげな目と目が合った。……たぶん、一松も私の気持ちに気付いてる。一松と私は似てるから。
一松は私から目を逸らし、そして、
「……平気な訳ないでしょ。……お前がいなかったら、たぶん、俺だって死んでる」
そう言って、照れ隠しのように私の首元に口付けた。