dream

□班長さんと私(前編)
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……助けて、くれた?
止まっていた思考が、ようやく動き出す。
班長さんは転がっていた台車を起こすと、地面に散らばったゴミ袋を台車に乗せ始めた。

「あっ……やります!」

未だ震える足に力を込めて班長さんの側に歩み寄り、同じようにゴミ袋を台車に乗せていく。
すべて乗せ終えた後、私は班長さんに深く頭を下げた。

「あの、本当にありがとうございました。助かりました……」

もしも班長さんが助けてくれなかったらと思うと、ぞっとする。
顔を上げると、再び班長さんと目が合った。が、すぐに逸らされ、

「……別に。ただ通りかかっただけですから」

そう言うと班長さんは、私に背を向けて歩き出した。
その背中に向かって、私は再び頭を下げる。
しかしその場に一人残されて、ふと気が付く。今からまた一人で、ゴミ置き場まで行かなければならない。……怖い。今ならまだ班長さんを引き止めて、お願いすることも出来る。いやでも、助けてもらっておいて、さすがにそれは図々し過ぎるのではないか。

「……それ」

少し離れたところから班長さんの声が聞こえてきて、顔を上げる。
班長さんは数メートル先に立ち、こちらを振り返っていた。そしてある方向を指差す。

「護身用に持ってれば」

その先には、先程のナイフが転がっていた。
……確かに、あれば少しは気休めになるかもしれない。少し物騒ではあるけれど、致し方ない。
私は言われた通りにナイフを拾った。そして台車の元へ戻り、意を決して台車の持ち手を握る。
前方を見ると、班長さんは先程と同じ場所に立って変わらずこちらを見ていて。私が歩き始めると、班長さんも前を向いてようやく再び歩き始めた。



その日。結果的に私はゴミ置き場を経由して社員寮に戻るまで、班長さんに先導される形となった。
そしてその日以来、班長さんは毎日私のゴミ捨てに付き合ってくれている。


「今日は月が綺麗ですね、班長さん」

「ああ…」

「今日の天ぷら定食、脂っこくなかったですか?」

「ん。大丈夫」

「あ、明日は班長さんの好きなお魚定食ですよ」

「……そう。楽しみにしとく」

そこで班長さんは少しだけ笑った。それを見て、私もつられて笑顔になる。
最初こそ口数の少ない班長さんだったけれど、毎日話しているうちに段々と打ち解けてきたように思う。先程のように、笑顔も時折見せてくれる。また、最初の頃は私と班長さんの間には数歩分距離があったけれど、最近ではこうして肩を並べて歩くようになった。
こうした毎日の変化が、嬉しい。
班長さんと過ごすこの時間が、私にとってはいつの間にか、一日の中で一番の楽しみになっていた。

どんなに仕事が大変でも、最後には班長さんに会える。そう思って仕事も毎日頑張れた。
……それなのに。
まさかあんな形で私達の関係に終わるが来るなんて、あの頃の私は思いもしなかった。
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