dream
□育った愛の行く末は
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カラ松に告白する覚悟は出来ていた。出来ていた、はずだった。
だけど、まさかこんな形で想いを伝えることになろうとは思いもしなかった。
きっとカラ松にとっても予想外だったに違いない。カラ松は目を丸くして顔を真っ赤に染めたまま、驚いたような、戸惑ったような表情を浮かべている。……こんな形で想いを伝えることができて逆に良かったと、今まで見たことのないカラ松の表情を見ながら思った。
見つめ合うこと数秒、カラ松の表情が一変した。そして眉尻を下げたカラ松が口を開く。
「……泣いて、いたのか?」
「……!」
おそらく今の私は、泣き腫らして酷い顔をしているのだろう。それ以上の醜態をカラ松に見られたくなくて、思わず顔を逸らす。
「いや、これは、その……」
「相変わらずデリカシーってもんがねぇなぁ、おめーは」
「え」
見かねたチビ太が横から口を挟む。
チビ太は新しいコップを取り出すと、慣れた手つきで麦茶を注ぎ、カラ松のいるほうへと差し出した。
「まぁ立ち話もなんだ。カラ松、おめぇも座んな」
いつもの調子に戻ったカラ松が、私の泣いていた理由を聞いて少し声を大きくして否定した。
「それは違うぞハニー。俺は彼女のことをハニーと呼んでいない」
「……え」
「じゃあななしの聞き違いか?」
チビ太の問いに、カラ松は続けて首を横に振る。
「いや……俺が『ハニー』と言っていたのは確かだ。だがそれは、彼女のことを呼んでいた訳ではない。ハニーの……ななしの話をしていたんだ」
「……私の?」
「ああ。ちなみに彼女は俺が演劇部だった頃の後輩で、偶然ショッピングモールの前で会ったんだ。寄る店が違うし、少し話をした後すぐに分かれたんだが……彼女とは終始ななしの話をしていたからな。たぶん、それで思い違いをさせてしまったんだろう。俺にとってハニーはななしだけだ」
「なんでぇ、じゃあやっぱりななしの勘違いか」
カラ松とチビ太の言葉に、今度は私が真っ赤になる番だった。
結局私は、一人で勘違いしていただけだったのだ。勘違いして苦しんで泣いた挙句、チビ太に迷惑をかけた。物凄く恥ずかしい。そしてカラ松の『ずっとななしの話をしていた』『俺にとってハニーはななしだけだ』という台詞にどうしても期待が高まる。
「…その、ごめんチビ太……迷惑かけて……」
とりあえずチビ太に謝っておく。
チビ太は苦笑しながらも「気にすんな」と言ってくれた。
その様子を見たカラ松が、
「フッ……恋の前では誰しも盲目になるものさ」
そう言って私をフォローしてくれた。優しい。だけど今はその優しさすら恥ずかしさを増幅させる。
「そういやカラ松、昨日言ってたやつはどうするんだ?」
「ああ……昨日の話は、やっぱりなしにしてくれ。今、ここで渡すことにした」
何やら二人にしかわからない会話をした後、カラ松はいつものように凛々しい動作で椅子から立ち上がった。そして屋台の外側へ回り、椅子に座ったままの私の側へ来るとそのまま地面に片膝をついた。