dream

□演技でも本性でも
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小雨の降る休日の昼下がり、私は松野家へと向かっていた。


「明日の昼過ぎ、家に来てくれないか。見せたいものがあるんだ」


カラ松にそう電話で言われたのは昨日の夜。カラ松にしては珍しく性急な誘いだと思ったが、特に用事もなかった為、ひとつ返事でOKした。
が、今になって少し後悔している。カラ松と会うのは、二人で釣りに行った日以来なわけで。あの時のカラ松の“演技”を思い出すと、どうにも落ち着かないというか、未だに少しどきどきしてしまう自分がいる。


あの日。

『今さっきのは、演技だよね…?』

私の問いかけに対し、

『もちろん、演技だが』

不思議そうな顔で当たり前のようにそう言ったカラ松に、正直ほっとした。
私にとってカラ松は、痛いけれど六つ子の中では一番優しくて気の良い奴、という認識だったのだ。それが其の実、あんなに愉しそうに人をなじる加虐的な本性を隠し持っていたのだとしたら、この先どんな顔をしてカラ松と会えばいいのかわからない。



そうこう考えている間に、松野家に着いた。傘をたたんで玄関の戸を叩き、カラ松を呼ぶ。
すると家の中から「開いてるから入ってきてくれ」というカラ松の声が聞こえてきた。言われた通り玄関の戸を引き、中に入る。

「…お邪魔します……」

家の中はやけに静かだった。いつもならみんなの話し声や十四松の足音が聞こえてくるはずなのに、物音一つしない。その上こんな天気だというのに電気も付いていない為、家の中は薄暗い。……先程の声からして、カラ松が家の中にいることは確かなのだが。
少し不安になりながらも、居間の襖を開ける。と、

「遅かったな」

「!」

襖のすぐ横の柱に、カラ松がもたれ掛かって立っていた。

「……カラ松?どうしたの、電気も付けずに……」

「そんなことよりまず言うべきことがあるんじゃないか?」

「……え、何、」

言いかけたところで急に乱暴に手を引かれ、ドン!という音が聞こえたかと思うと、カラ松の顔が目の前に来ていた。……所謂、壁ドンというやつだ。

「遅れて来ておいてその態度はないだろう?……なぁ?」

「……っ!」

まるで逃がさないと言わんばかりに強く手を掴まれたまま低く耳元で囁かれ、ぞくぞくとえも言われぬ感覚に陥る。
黙ったままでいると、更に「ほら、」と手を握る力を強めながら、次の言葉を促される。

「っ……遅れて、ごめんなさい……」

そう言うと同時に、手の圧迫感から解放される。
ほっと一息ついたのも束の間、

「ん……いい子だ」

先程までとは打って変わって優しげな声で囁きながら、カラ松は先程まで握り締めていた部分をするりと優しく撫でる。
……これは、もしかして、


「……。……前に私が好きだって言ってたドラマ、見た?」

「『それにしても、こんなところに呼び出されてのこのこやって来るとは……とんだ淫乱だな』」


ああ、間違いない。どうやら、この間の私の反応に気を良くしたらしいカラ松は、あの時演じたドラマの役の、別のシーンを再び演じているらしい。
どうりでいつものカラ松とは様子が違ったわけだ。カラ松は時間にルーズではないが、私が少しばかり時間に遅れたとしても「フッ……レディは身支度に時間がかかるものだろう?ノープロブレムさ」とかっこつけて許してくれるはずだ。
カラ松は私の言葉を無視してそのまま役を演じ続けようとする。だけど待って、確か、この続きは……

「ちょっ……カラ松、待っ、」

力ずくでカラ松から離れようとするも、力でカラ松に敵うはずもなく。カラ松は私の両手を右手で拘束すると、左手でやわやわと私の腹部を撫でる。

「ほら、ご褒美に、お前のここに……俺の証を刻んでやろう。何度でも、飽きるまで、な。……はっ、そんなに腰を揺らして……想像しただけで感じているのか?相変わらず、いやらしい女だな…?」

耳元から直接流れ込んで来るカラ松の声は、いやらしくて、それでいて心底愉しそうで。先程からぞくぞくとした感覚が止まらない。
続けて、はあ、とカラ松の熱い吐息が耳にかかった途端、私は堪えきれずその場にへたり込んだ。
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