dream

□暑中見舞い
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松野家を訪れると、一松が居間に一人、甚平姿でスイカを頬張っていた。


「……あれ?一松一人?」

私がそう尋ねると、一松は「ん」と頷きながら答える。続けて「みんなは?」と聞いてみたが、それに対する一松からの返事はなかった。
一松はもぐもぐとスイカを咀嚼した後、もごもごと口を動かし、そして最後にスイカの種を手元の皿に吐き出した。

「みんなは出掛けてる。十四松は野球、おそ松兄さんはパチンコ。……それ以外は知らない」

「……で。みんなが出掛けてる隙に、こっそり一人でスイカ食べてたの?」

そう尋ねながら私は、扇風機の風を独り占めしている一松のすぐ隣に座る。

「……洗濯物手伝ったら、母さんが切ってくれた」

「なるほど、労働に見合った報酬という訳か」

「そういうこと」


それならもしみんなが帰って来ても、とがめられることはないだろう。一松が甚平姿なのも、きっと他の服を洗濯しているからなのだろう。
一松は再びスイカを口にする。甚平を着ていつもの猫背で胡座をかいた姿は、凄く様になっていてかっこいい。反面、両手でスイカを持って頬張る仕草は、ハムスターみたいで可愛い。
そんな一松を見て、ああ、好きだなあ、と改めて実感する。



「……何ニヤニヤしてんの」

思わず一松に見とれていたが、一松の訝しげな声で我に返る。

「ん……一松は可愛いな、って思って」

「…………。……ふーん……」


一松が微妙な合間で相槌を打つ。
そしてしばらくスイカを見つめた後、「食べる?」と食べかけのスイカを私のほうに差し出してくれた。
可愛いと言われて嬉しかったのかもしれない、私はお言葉に甘えて、一松が持っているスイカにそのままかぶりついた。
中心の甘い部分は一松が既に食べてしまっていたが、それでもほんのり甘くてみずみずしく、十分美味しい。が、


「んっ、」

不意に一松が手を動かし、口の端にスイカがついてしまった。
手で拭おうとしたところで一松に手を掴まれ、そして、

「っ!」

ぺろり、と口の端を舐められた。
ほとんどキスをしているかのような距離感に、心臓が高鳴る。しかし一松はすぐに離れ、そして自身の唇を舐めた。ちらりと覗く舌が扇情的で、思わず見入ってしまう。目線を上げると一松とばっちり目が合って、恥ずかしさのあまりあからさまに視線を逸らした。
すると一松は追い打ちをかけるように、


「おれは、お前のほうが可愛いと思うけど」


なんて、普段は絶対に言わないような台詞を吐くものだから。
私は「馬鹿」と、照れ隠しとしか言いようのない返事しか出来なくて。

そんな私に、一松は満足そうに、いつもの台詞を言うのだった。



「もっと蔑んでもいいですよ」

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