dream
□暑中見舞い
1ページ/1ページ
松野家を訪れると、一松が居間に一人、甚平姿でスイカを頬張っていた。
「……あれ?一松一人?」
私がそう尋ねると、一松は「ん」と頷きながら答える。続けて「みんなは?」と聞いてみたが、それに対する一松からの返事はなかった。
一松はもぐもぐとスイカを咀嚼した後、もごもごと口を動かし、そして最後にスイカの種を手元の皿に吐き出した。
「みんなは出掛けてる。十四松は野球、おそ松兄さんはパチンコ。……それ以外は知らない」
「……で。みんなが出掛けてる隙に、こっそり一人でスイカ食べてたの?」
そう尋ねながら私は、扇風機の風を独り占めしている一松のすぐ隣に座る。
「……洗濯物手伝ったら、母さんが切ってくれた」
「なるほど、労働に見合った報酬という訳か」
「そういうこと」
それならもしみんなが帰って来ても、とがめられることはないだろう。一松が甚平姿なのも、きっと他の服を洗濯しているからなのだろう。
一松は再びスイカを口にする。甚平を着ていつもの猫背で胡座をかいた姿は、凄く様になっていてかっこいい。反面、両手でスイカを持って頬張る仕草は、ハムスターみたいで可愛い。
そんな一松を見て、ああ、好きだなあ、と改めて実感する。
「……何ニヤニヤしてんの」
思わず一松に見とれていたが、一松の訝しげな声で我に返る。
「ん……一松は可愛いな、って思って」
「…………。……ふーん……」
一松が微妙な合間で相槌を打つ。
そしてしばらくスイカを見つめた後、「食べる?」と食べかけのスイカを私のほうに差し出してくれた。
可愛いと言われて嬉しかったのかもしれない、私はお言葉に甘えて、一松が持っているスイカにそのままかぶりついた。
中心の甘い部分は一松が既に食べてしまっていたが、それでもほんのり甘くてみずみずしく、十分美味しい。が、
「んっ、」
不意に一松が手を動かし、口の端にスイカがついてしまった。
手で拭おうとしたところで一松に手を掴まれ、そして、
「っ!」
ぺろり、と口の端を舐められた。
ほとんどキスをしているかのような距離感に、心臓が高鳴る。しかし一松はすぐに離れ、そして自身の唇を舐めた。ちらりと覗く舌が扇情的で、思わず見入ってしまう。目線を上げると一松とばっちり目が合って、恥ずかしさのあまりあからさまに視線を逸らした。
すると一松は追い打ちをかけるように、
「おれは、お前のほうが可愛いと思うけど」
なんて、普段は絶対に言わないような台詞を吐くものだから。
私は「馬鹿」と、照れ隠しとしか言いようのない返事しか出来なくて。
そんな私に、一松は満足そうに、いつもの台詞を言うのだった。
「もっと蔑んでもいいですよ」