貴族と貴族

□ともにゆく
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「初めまして。僕はクローリー・ユースフォード」
「私はアキ・ユーベルだ。」
「アキ様とお呼びすれば良いのかなぁ?」
「別に何でも、好きに呼んでもらって構わないのだよ」
「そう…なら、フェリド君と同じようにアキちゃんって呼ばせて貰うね」

何でその選択をしたのか…
馴れ馴れしい…
と思ったが
好きに呼べと言った矢先に訂正出来るはずもなく
承諾する他無かった

さすがフェリドが連れてきただけある

フェリドも苦手だが
クローリーも苦手だとアキは感じた

それよりも…

気になるのは彼の瞳

前に会った時とは違い
彼の瞳から
不安、怖れなどの瞳の揺れを全く感じなくなっていた

あの頃よりも

成長したというのか

吸血鬼という化け物に成り下がったというのか

なんとも言えない複雑な気持ちが押し寄せる

「お前…名古屋市役所を拠点としたいのか?」
「うん。だから協力をお願いしたいんだ」
「それは構わないのだが…たくさんの人間と戦うことになるのだぞ?」
「うん。わかってるよ」

軽い揺さぶり

きっとこの場にいた、誰もがアキの質問の意図を理解していただろう
元人間だったクローリーに
人間を虐殺するような行為が行えるのか
そうアキは問うたのだ

だか

そんなアキの質問にニコニコと笑顔を浮かべたまま平然と返答するクローリー

あぁ

こいつは

身も心も吸血鬼になってしまったのだと
アキは、確信した

ならば問題無い

「わかった。では明朝より名古屋市役所に向かう」
「ありがとう。宜しくね。アキちゃん」
「こちらこそ、宜しくなのだ」

2人は握手を交わした

「僕とは行かないって言ったのに、クローリー君とは行くって……妬けちゃう」
「黙れ。フェリド」

フェリドに叱咤し、アキは広間を後にした

そして向かうは


お風呂


湯船に浸かり一息つく

そして

自分の両手を上にあげ指と指の間から透ける光を見つめる

この手は
どれほど汚れているのだろうか

吸血鬼として生を成し
吸血鬼として育ったその瞬間から


無数の人間の血や汗、叫びや憎悪、恐怖でまみれている


ザブッと湯船から出て鏡で自分の瞳を見つめる

整った顔立ちなのは自負しているが
その顔を印象付ける両の眼

赤く輝いてはいるが
この瞳は何も感じず、何も映さず
冷え切っている

フッと初めて見かけた頃のクローリーと自分を比べると…
自分と言う化け物はなんと滑稽なのだろうか

醜い泥が自分を覆い尽くす

拭っても

拭っても

拭いきれないほどの泥がまとわりつく…

そんな吸血鬼に彼は………





ガシャンー





アキは渾身の力で鏡を叩き割った

「私は一体、何を考えているのだ」

パラパラと落ちていく硝子
手からは微量の血が流れる
だが

その傷はすぐに消える

彼はもう吸血鬼

そして

もちろん

自分も吸血鬼

何も違いなどない
そこに
光など存在しない

「私は…光を求めているのか?」

だが
光とは何のことなのだろう

考えていてもきりがない

吸血鬼とは元より感情が乏しい生き物
あるのは
吸血欲
支配欲
そして、殺戮を好む
ただそれだけ

それ以外の感情はわからない上、つける名前すら知らない…

アキは考えることをやめ、静かに風呂場を後にした



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