終わりのセラフ短編

□☆響く声
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『響く声』

どこからともなく聞こえてくる歌…
それに惹かれるように吸血鬼であるクローリー・ユースフォードは月明かりを頼りに街の瓦礫を避けて進む

「………」

瓦礫が開けたその先に…
人間の死体の山の上でメロディーを奏でる女がいた

「………」

透き通るその声と透き通るような儚い容姿
悲しいのか、嬉しいのか
人間なのか、吸血鬼なのかそれすらわからないほど
神秘的と言う言葉が一番合うのだろう

その様子を見てクローリーは思わず息を飲んだ
そしてその様子をジッと見つめていると歌が途切れ、あたり一面が静寂に包まれる

「誰…」

女がクローリーに気づいて声をかけた

「君こそ誰だい?こんなところで」
「私は亜紀…貴方は?」
「僕はクローリー・ユースフォード。吸血鬼だ。君は人間かい?」

クローリーの質問に亜紀は黙る
何も答えない亜紀にクローリーは少し近づいた
自分の近くにいる者が吸血鬼と知り、恐ろしくて声が出せなくなったのか?
いや、そのような様子はなく亜紀は静かに何かを考えているようだ

「私は…」

そして静かに口を開く
それに合わせてクローリーは歩みを止めた

「私は…人間なの?吸血鬼なの?一体何者なの??」

絞り出されたように出た言葉は、悲しげだった

「君は人間だ。そして僕は吸血鬼。」
「そう。私は人間なのね」

クローリーの発言に亜紀は静かに笑みをこぼした
最初はわからなかったものの、近づくことでクローリーは亜紀を人間だと断定した
吸血鬼のように白い肌をしてはいるものの、人間であるが故の細くてか弱い身体

「あぁ君は人間だ。人間の君がなんで人間の死体の上で歌を?」

また静かになる
そしてクローリーはまた歩みを進める

「わからない…」

先ほどとは違って冷静な亜紀の声

「もう何もわからないの。私が何者で…私は何故ここにいるのか……。」
「そう…」
「今起きてることは現実?それとも私の夢?」
「………」
「この子たちに聞いても何も答えてはくれない」

そう言って亜紀は自分の真下にいる人間の死体の髪の毛をかきあげた

「寝てるのかな?良い夢見てるのかな?だったら子守唄でも歌おうと思って…」

狂っている
クローリーはそう思った
この死がそこら中に転がるこの世界で過ごしていると現実と夢の境目がわからなくなる
誰を失ったのか、自分が今どういう状況にいるのかもわからない

けれどそんな亜紀の姿を見て、クローリーは美しいと思う

生きながらに、生きているか、死んでいるかの境目すらわからなくなっている彼女を
美しいと思う

そしてクローリーは彼女に手を差し出した

「僕についてくる?」

亜紀はその差し出された手をそっと掴むのだった。


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