短編

□夜のホテルのプールで(勇ヴィク前提クリス×ヴィクトル)
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「写真撮ってよ」

夜のホテルのプールでクリスは言うので、ヴィクトルはスマホに触れて、まるでどうでもいいような表情で、写真を撮ってやった。
「クリスはなんでここに?」
「海パン見りゃわかるだろ。泳ぎに決まってんだろ」
「なんで夜になの。そんなに泳ぐの好きだっけ」
「部屋から、ヴィクトルが見えたんだよ」

クリスは水から上がってきて長椅子に座り、タオルで髪や身体を拭きながら、またもやグラスにワインを注いだ。
自分の姿が見えたから来た。というクリスの意味深な言葉を聞こえなかったかのようにヴィクトルは続ける。

クリス、君の誘いには乗らないよ。

「お酒入ったまま、よく泳げるねえ」
「少量だし、平気さ」
ワイングラスを傾けながらクリスは言った。

「そう。・・・じゃあ、俺、戻るよ」
椅子から立ち上がってサングラスをはめ、踵を返そうとしたらクリスに手首を掴まれた。
「待てよ」
「いい加減寒くなってきたし部屋へ戻るよ」
「じゃあ、ちょっとだけ」
「うん?」
クリスは返事をしないで、後ろからヴィクトルの腹部へと腕を回してきた。
クリスの鍛えられた筋肉が、つまり胸部が、ヴィクトルの背中へと貼りついてくる。
ちょっとだけ暑苦しい。

「俺ほどじゃないけど、相変わらず引き締まったいい身体してるねえ」
ヴィクトルは呆れた様子で、サングラスを外し、軽く首を振った。
濡れた銀髪が雫と共に微かに光る。

背後から抱きしめているクリスはヴィクトルの首筋に口をつけてきた。
「ちょっと!ここ、ホテルの部屋から、見えるんだろ?」
「見させときゃいいよ」
クリスは気にした様子もなく呑気に返す。
クリスの息がヴィクトルの細くて白い首筋にかかる。
「マスコミに撮られたらどうするの」
「関係ないさ」
クリスは構わず首筋に吸い付いてくる。場所がさっきより下へずれてきた。まるで所有したいとでもいうように
跡を付けようとする。
「んんー。ちょっと、痛いよ、クリス。俺、早く勇利の元へ帰りたいんだけど」
少し眼を細めつつヴィクトルが言ったとたん、行為が止まった。
「・・・勇利に本気なのかい?」
背後に居るため、クリスの表情は見えない。
どう答えようかと、瞬時、ヴィクトルは悩んだ。
本気もなにも...

「勇利は今の俺のすべてだよ」
きっぱりとヴィクトルは言った。
まだクリスの腕は離れてはいかない。
いい加減離してくれ、という意味を持たせてヴィクトルは名前を呼んだ。
「クリス」
言って、首を回す。
瞬間見えたのは、自嘲したような、今までヴィクトルが目にした事がない寂しそうなクリスの表情だった。

「ん」
深いキスをされる。生温かいクリスの口内からワインの味がする。
「んん〜。ちょっと!」
いったんクリスはヴィクトルを解放したかと思えば、またキスをしてきた。
深くて熱いキス。
クリスは本番だけではなく、キスからして上手いのだ。

駄目だ。このままだとクリスのペースに押し切られてしまう。

唇は離れたが、頭がぼやっとしてきたヴィクトルは、慌てて眼を瞑ってふるふると首を振る。前髪が揺れる。両手でクリスを軽く押しやる。

「もう、俺、本当に戻るよ」タオルを肩にかけて、サングラスをかけ直し、ヴィクトルは歩きだした。

はあっと下を向いたまま、大きなため息を一つ吐いて。「待て。俺も行くよ」
とクリスはヴィクトルの肩に腕を回して着いて来ようとする。
その表情は、いつものクリスに戻っていた。



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