短編

□体温(刀剣乱舞 歌仙×山姥切)
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歌仙兼定は、動揺と同時に歓喜していた。
何故なら腕の中に山姥切国広がいるからだ。

疲労がピークに達して気を失った、山姥切の首の下へ腕を回して歩く。
本丸へ帰るための転移スポットを探していた。
早く帰還しなくてはいけない。思っているのだが、なかなか適切な場所が見つからない。
そうしてる間に、ポツポツと雨が降ってきた。
少しの間雨を防ぎ、休める場所はないだろうか。
そう思っていた矢先、小屋が見えてきた。
建物の体裁をどうにか保っている、おんぼろでも、無いよりましである。
山姥切を引きずるようにして、中に入った。

小屋の中に入って少しほっとしたのか、おもわず安堵の息を吐いた。
外は本降りになってきた。
山姥切の、雨合羽代わりになっていた布を取ってやる。
そっとその身を横たえさせた。
またふうと息を吐いた。
思い出したかのように、持ち歩いている気に入りの手拭いで、我が身を拭っていく。
山姥切は気を失ったままである。
顔色がなく、眠っているかの様に見えた。

熱を与えなくては。
ふと考えた。

このまま山姥切から、体温という、人の身に不可欠なものが失われたらどうするんだ。
雨がおさまったら転移スポットへ彼を背負って行けば良い。
無事に本丸へ帰還できるだろう。
怪我をしているわけではないのだし。
山姥切の肉体は、手入れ部屋へ数時間入れば遠征前の状態へ元どおりだ。

判っている。
頭では、充分判っている。

だが、もし山姥切がこのまま目を覚まさなければ?という不安が、急に頭をもたげてきた。

気がついたら、まるで何かに導かれるかのように、彼の頬に片手をやりながら、まるで神聖な儀式のように口付けた。
彼の上着や甲冑を脱がす。ネクタイをするすると外し、ニットとシャツを脱がしていく。
山姥切が目を覚ます気配はない。
喉元へそっと唇を動かした。
自分でもよく鍛え上げられてる、と内心自慢に思っている筋肉に覆われた身体。
その肉体をさらすべく、着物をすべて脱ぎ去って。
彼の身体をおそるおそる包み込んだ。
しだいに腕の力は強くなっていく。
思い切り強く、強く。

ああそうだ。
自分はずっと彼をこの腕に抱き込みたかったのだ。

「...か、せ...ん?」
意識を取り戻したのか、蚊の鳴くような声。
うっすらと、眼を開けた山姥切の額に手をやり、前髪をかきあげてやる。
ゆらゆらと揺れる瞳に、自分が写っているのが嬉しい。
そのまま、さっきより深く、思いのまま口付けた。



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