空色スパイラル

□第四訓 第一印象がいい奴にロクな奴はいない
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お登勢は静かに語りだす。


「残念だよ。
あたしゃ、アンタのこと嫌いじゃなかったんだけどねェ。
でも、ありゃあ。偽りの姿だったんだねェ。
家族のために働いてるっていうアレ。
アレもウソかい」


お登勢は一歩ずつキャサリンに近づく。


「…お登勢サン…アナタ馬鹿ネ。
世話好キ結構、デモ度ガ過ギル。
私ノヨウナ奴ニツケコマレルネ。」


「こいつは性分さね。もう直らんよ。
でも、おかげで面白い連中とも会えたがねェ。」


お登勢は煙草を一本取り出しながら、昔の事を思い出す。


「ある男はこうさ。
ありゃ雪の降った寒い日だったねェ。
あたしゃ気まぐれに旦那の墓参りに出かけたんだ。
お供え物置いて立ち去ろうとしたら」


〈オーイ、ババー〉


「墓石が口ききやがったんだ。」


〈それ、まんじゅうか?食べていい?
腹減って死にそうなんだ〉


〈こりゃ、私の旦那のもんだ。旦那に聞きな〉


「そう言ったら間髪を入れず、そいつはまんじゅうを食い始めた」


〈なんつってた?私の旦那〉


「そう聞いたら、そいつなんて答えたと思う」


語るお登勢に、キャサリンは銀時のスクーターに跨ったまま迫る。
だが、お登勢は逃げようとしない。


「死人が口きくかって。
だから、一方的に約束してきたって言うんだ。
この恩は忘れねェ、アンタのバーさん…老い先短い命だろうが」


キャサリンの背後に川から飛び出した銀時が木刀を振りかざす。


〈この先は、あんたの代わりに俺が護ってやる〉ってさ。


お登勢は微笑む。
その瞬間、鈍い音が響いた。





「仕事くれた恩を仇で返すたァよ。
仁義を解さない奴ってのは男も女もみにくいねェ、ババァ」


銀時は煙草を吹かすお登勢に言う。
二人は役人に連れていかれるキャサリンを見ながら。


「家賃を払わずに人ん家[ち]の二階に住みついてる奴はみにくくないのかィ?」


「ババァ、人間なんてみんなみにくい生き物さ」


「言ってることメチャクチャだよアンタ!
そんなんだから愛にいつまでも振り向いてもらえないんだよ。
もたもたしてると、そのうち誰か他の男に取られるよ」


「それとこれとは関係ないだろ!!
てか、振り向いてもらえないのは、愛が鈍感なだけだし…」


お登勢は銀時の言葉を聞くと笑う。


「まァ、いいさ。
今日は世話んなったからね。
今月の家賃くらいはチャラにしてやるよ」


「マジでか?ありがとうババァ。
再来月は必ず払うから」


「なに さりげなく来月スッ飛ばしてんだ!!」


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