世界一妹

□光の輪
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「…………おそ松、兄ちゃん?」






















俺を眠りから呼び起こしたのは、菘の声だった。





「ん……どうした、菘……」





昨夜涙を流したせいかしばらく霞む目を擦りながら隣にいる菘に振り向く。





菘は、唖然とした表情で俺を見つめていた。















「おそ松兄ちゃん、なの?」
















「何言って……………」








誰よりも人の違いに気付き察知する菘がこんな風に確認してくること、珍しいな…



寝ぼけた頭でそう考えた後、俺は菘の様子を思い出してハッとした。







菘が俺を、真っ直ぐ"見つめている"。















「菘、お前…………」



















「見える…………








 おそ松兄ちゃん、 見える………!!」















顔をくしゃっと歪めてぽろぽろと涙を零し、菘が俺に抱きついてきた。






「う、うそ……っ、え、これ、……俺、


 心病みすぎて夢見てんの……?」





「夢じゃない!ばか兄ちゃん!!見えるんだってばぁ!!」






菘に涙声で罵られたと思ったら、今度は強く頬を引っ張られた。







痛い。







「……痛い。」








夢じゃない。









「夢じゃ、ない……!!」









目頭が熱を持つのを感じた瞬間、俺は菘の腕を引いて強く抱き締めた。


子どもみたいに泣き喚き、格好悪く菘に顔をすり寄せる。





「兄ちゃ……っ、せっかく、見えるのに、……顔がっ……見えないじゃん……っ」





嗚咽を漏らしながら菘が俺の肩を押す。



それもそうだと納得し、抱き締めていた手をそっと両肩に添えると顔のよく見える距離で互いを見つめた。





「……………」




「……………」





涙を拭いながら俺を一生懸命見つめる菘。



俺もゴシゴシと目を擦って、ニカッと渾身のスマイルを見舞った。














「……ぷっ」







「ちょ、おい。その笑いはおかしいだろ!」





俺の顔を見て吹き出した菘に物申すが、それがまた面白かったようでアハハハとお腹を抱えて笑い出した。



初めて"彼氏"の顔を見てツボるってどういうことなの?




「ご、ごめんね……


 なんかさ、あーおそ松兄ちゃんだなって腑に落ちちゃって……フフッ……」




「なんだそれ」




はぁー、と深呼吸する菘に、俺も無意識にフッと笑みを零す。






……昨夜諦めて"プレゼント"しなくてよかった。












「 …菘、」











俺はベッドサイドのキャビネットから小さなケースを手に取り、




蓋を開けて菘の前に差し出した。


















「俺、菘のこと絶対幸せにする。




 だからこれからも ずっと一緒にいて欲しい。」
















菘は口を開けたまま、俺の手元………朝日を反射して輝く指輪を呆然と見つめていた。








「…………、」







俺の顔に目線を移して、何か言おうと動いた彼女の口が震えて止まる。



大きな瞳から、大きな雫が次から次へと零れ落ちていく。




そして一度唇を噛み締めてくしゃっと顔を歪めてから、大きく息を吸った。











「よろしく、お願いしますっ…!」












震えて、裏返って、涙に濡れた声が俺の胸に染み渡った。












・・・・・













「ねぇ菘……もう、終わっちゃった?」





「……うん、終わっちゃったよ」





「……そっか」




「……うん」





翌朝、菘の視力は元通りに戻っていた。



俺がしゅんとしてはいけないと分かってはいても、やはり刹那的な魔法だったのだと思い知らされ現実に立ち返ってしまう。





「夢じゃ、なかったよな?」




「うん、夢じゃなかったよ」




「…………」





微笑み、瞼を開いている菘だがその瞳は虚空を見つめている。


俺はそのことに落胆しているのか?


だとしたら最低だ。


一日限りの夢に溺れて、現実に戻った瞬間"カワイソウ"か?


今まで"菘をカワイソウなんて言う奴は信用できない"と思ってきた俺が……


そんなこと、思ってない……


俺は心から菘のこと……











「 おそ松兄ちゃん、





  ありがとう 」











俺の頬に伝う雫を、暖かい指が拭い去った。




ああ……そうだよな。



柄にもなく頭働かせるから混乱するんだよな。






「おそ松兄ちゃん」





俺を呼ぶ声、


俺の気配がする方を懸命に見つめる瞳、





俺を救う笑顔。






「菘、」





感じる全てから、愛が溢れて止まらない。




考えずともこうして答えは出ている。













「好きだ」










その声を合図に、どちらからともなく唇を重ねる。




深く絡めた左手には



二人の誓いが煌めいていた。














Fin.










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