社畜姫と6人のニート
□鈍感女×純粋男
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《睦月視点》
私は睦月。フジオ総合病院看護師という立派な肩書きを持つ『キャリアウーマン』だ。
それ以外は何の変哲もない普通の善良市民だ。
あと家に六匹ほどニートを飼っている。
仕事に忙しく生活している為、社畜だのブラックだのなんだのと言われることもあるが、決してそんなことはない。
社畜ではなく『キャリアウーマン』ですから。
…結婚?彼氏?いえいえ結構です、仕事に支障が出たら大変ですし。ええ…別に言い訳じゃないです…ええ。
と、そんな私にもゆっくり過ごせる休日はやってくる。
その日私は、久し振りに自由にできる休日ということで一人ショッピングと洒落込んでいた。
う〜ん!一人でのびのびと買い物ができるって気楽でいい!
……と、思っていたのだが。
「………フッ………」
………
「……フッ!」
……………
「………………フッ。」
……どうやら、そうもいかないらしい。
嫌な予感、と言うのも白々しいくらい、決定的な"鳴き声"。
そこで服を見ている革ジャン男は、そう……
「…
……ん?
フフッ、俺に会いに来たのかい?カラ松ガール…」
「うっわぁ………見つかった………」
「うっわぁとか言うなよ」
松野カラ松。
我が家に居候する六ぴ……六人のうちの一人であり、就活中の住所不定無職の男である。
サングラスをくいと下げてこちらを窺う黒い瞳がウザい。
だが不幸中の幸い、今日はカラコンはしてないようだ。
「カラ松、服買うの?
…へー、こういう店で買うんだ
普通にかっこ良さそうな店なのに、よくそういう服見つけられるね」
「千里眼のカラ松と、昔はよく呼ばれたものさ………」
「二十数年一緒にいたけど聞いたことないよ」
フッ…と笑ってごまかすカラ松。いや、ごまかせてないから。っていうかそもそも褒めてないから。千里眼があってもセンスが無いから。
店内を見回してみると、ファッションセンス的には比較的尖った傾向にある店のようだ。
カラ松がさっきまで手にとっていた商品はその中でもかなり目立つ、ダメージジーンズというか大ダメージジーズというか、…なんかインパクトが凄い。
「カラ松さぁ…
奇抜な服は確かに目を引く力はあるし悪いとは言わないけど…
女は落ち着いた服を着こなす"大人の男"に弱いものよ」
「何!?
そうなのか!?」
「………ほら、そこのマネキンが着てるやつとか」
私は、この付近で一番"大人しい"コーディネートをしたマネキンを指差す。
指差す先を目で追ったカラ松が顎に手を当てて考える。
「…ちょっと地味じゃないか?」
「かー!分かってないなー!
すみませーん!これ試着いいですかー!?」
「えっ、ちょ、」
問答無用。
私は困惑するカラ松をフィッティングルームにぶち込んだ。
・・・・・
「………に、似合ってるか……?」
恐る恐るといった風にカーテンが開けられる。
そこにはいつもの痛いカラ松ではなく、シンプルでフォーマル風な着こなしをしたシックなカラ松がいた。
もともとスタイルはいい方だと思うし隠れ筋肉質だから、見せつけすぎずポイントポイントで筋肉質を匂わせる控えめコーデの方が女はときめくと思うんだ。
うん、やっぱ似合ってる。
「おー!似合ってるよカラ松!
カッコいい、カッコいい!!」
「!!
本当か!?
カッコいいか!?」
パァァと音が聞こえてきそうな嬉しそうな顔。
カラ松は滅多に他人から褒められないからな……なんと満足そうな表情か。
まぁそれは置いといて。
「うん、じゃぁ次これ着て」
「え」
「その次これ」
「え、いや、」
「あ、それの上にこれ羽織って」
「あの……」
「早く」
「……はい」
カラ松は小さくなってフィッティングルームに戻っていった。
・・・・・
「はーーー!
いい買い物したねー!」
清々しく伸びをしながら店を出る。
「睦月……
ほ、本当にいいのか?お金……」
そんな私とは対照的に、いくつもの紙袋を引っ提げて未だに困惑しているカラ松。
こういうところで常識人的感性を持っている、それも彼に信用を置いている理由の一つだ。
松野家の唯一の良心と言ってもいい。と、私は思っている。
「ああ、いいよいいよ
私の趣味の服着させるわけだからね」
「悪いな。今度奢る」
無職なんだから無理すんなって。と言いかけた時…
グゥゥ〜……
「……」
私の空腹アラームが鳴った。
……いや、もしかしたら自分にしか聞こえない音かも、
「………
やっぱり、今奢る」
「……今の聞こえてた?」
「………聞こえてた」
………聞こえてたようだ。
「バレてしまっては仕方ない……
貴様には消えてもらおう」
「腹の音ごときで消されるの俺!?」
…そうして、意図せず次の行き先が決定したのであった。
・・・・・
「ご馳走さまでした!
遠慮なく食べちゃってごめんね!」
「俺の小遣いが……消えた……?」
本当に奢ってもらってしまった。
無職の男に。
「いやーでもご飯奢られるのなんて久しぶりでさ!
満腹〜、幸せ〜」
レストランを出、お腹をさすりながらのんびりと歩く。
カラ松も私の歩く速度に合わせてくれているようだ。
まぁ自分一人速く歩いたとしても私は追いかけず自由に動くってことは分かってるだろうし、もう長年の付き合いで慣れているのだろう。
「ステーキ美味しかったな〜」
「フッ……
奢った甲斐があったぜ
可愛いガールフレンドができたみたいだな!…なんて」
「へっくしょい!!
………え?今なんて?」
突発的なクシャミと同時にカラ松が何か言っていたようだが、聞き返したら「なんでもないです……」と若干落ち込ませてしまった。
なんだよ言えよと思いながらも、頭はすぐに切り替わりこれからどうするか考え始める。
そしてそれはどうやら向こうも同じようだ。
「睦月、偶然会ったはいいが大丈夫なのか?…何か予定があったりとか」
「んー?うん、今日何も予定ないから大丈夫ー
……いやー、カラ松も気遣いできるくらい成長したんだねぇ。感慨深いものがあるよ」
子供の頃を思い出ししみじみと語る私に、カラ松はちょっと恥ずかしそうに頬をかいた。
「そ、そう…か?
まぁ昔はヤンチャしてたからな。その時と比べれば…」
「ヤンチャなんて可愛いもんじゃなかったよ」
「う……まぁでも今思えば、睦月にはいつも心配かけてたな」
今度はカラ松も思い出に浸り始め、私が照れ臭くなる番だった。
問題児と優等生。
それだけの関係だったら確かに…必要以上に六つ子達に構うことはなかった。
でも、"心配"と言われるとなんだかむず痒くて私達の関係にはしっくり来ない表現に感じる。
「心配、というか…
私はただ平和でいたかっただけだよ。」
「そのわりに、今も六人居候させてくれてるが」
『ただ平和でいたかっただけ…みんなと』とは言えずちょっと濁してみたが、速攻反撃を受けてまた言葉に詰まる。
「そ、それは、だって…
私が断った後に野垂れ死にされたりしたら寝覚め悪いじゃない?」
「フッ……
そういうことにしとくか」
「余裕の笑みムカつくから殴っていい?」
「良くない!」
照れ隠しにカラ松のかかとをゲシッと蹴る。
「蹴るのも良くない!!」
すかさず良い反応してくれる。
だから彼はよくイジられるんだろうなぁ。
「ストレス溜まってきたからカラオケ行かない?」
「散々当たっておいて俺のせいでストレス溜まってきたみたいな言い方するな」
カラ松もイジられる度にツッコミ力が身に付いているようだ。
この切り返しが欲しくてついイジっちゃうよね。
「何してんの、置いてくよ」
「えっ!?待って!」
そして、流れるようにカラオケ店へと足を運ぶのであった。
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