世界一妹

□手と手
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《おそ松視点》







「だぁーーーーーーーーーーーー…





 ……っれも構ってくれない!!!」




不満の叫びが部屋にこだまする。



「…………。」



返事など来ない。


なぜなら、今家には俺しかいないから!


ではなぜ家に俺しかいないのか!?


それは、弟達が俺をウザがって各々落ち着く場所に散らばっているからだ!!


お兄ちゃんを避けるなんて…なんという弟達だ。遺憾の一言に尽きる。


…しかし弟達が構ってくれないのは、言ってしまえばいつものこと。ほんの些細なことだ。


こういう時、俺の傍にはいつも彼女がいてくれた。



俺の、可愛い可愛い妹。



…なのに今日は一体どこに行ってしまったのか、家にもいない、弟達と一緒にもいなかった。





「菘ー……」





弟達が冷たくて尚且つ菘がいない時は、俺、どう過ごしていたっけ?



はぁ〜、つまんない。寂しい。菘不足で死にそう。


今日何曜日だっけ?街の方混んでるかなー…でも一人で行ってもなぁ…。




静まり返った室内に、孤独感ばかりを感じさせられる。






「だああああもうっ!!菘早く帰って来てーーー!!」







「ど、どうしたの?兄ちゃん…」





!!


玄関の方からずっと恋い焦がれていた声が聞こえ、俺は反射的に立ち上がり肘を壁にゴッと殴打した。


ああああ肘いってえ!!肘いってえけど菘きたあああああああ!!!






「菘ーーーーーーー!!!」





「ぶぇっ!え、何?ちょっと…どうしたの大丈夫?」




帰ってきた菘が視界に入り、まるで十四松のように飛びついてぎゅっと抱擁する。


菘は戸惑いながらも、俺の肩や背中をポンポンと叩いた。これが彼女なりの"無事確認"らしい。可愛い。



あー、肘いってえけど菘見たら治った…。






「もう!寂しかったよ!今まで誰とどこに行ってたの?」



「んとね、今日は盲導犬説明会に行ってたの」



「誰と?」



「え?一人でだけど…」



「なーんだ…」




男とデートじゃなくて良かった〜。


いやー良かった。菘が男と二人で出かけてたなんて言い出したらどうしようかと思った。


まぁそんなことがあった時はすぐ邪魔しちゃうけどね〜。


うん、一人で出掛けてたのか。なら許そう。


道理で家にも弟のところにもいなかったわけだ、盲導犬説明会なら仕方ない、うん。



うん。盲導犬説明会…






「うん…? "盲導犬"?」




"盲導犬"という言葉に、時間差を持ってショックが襲う。


盲導犬……って……目の見えない人の外出とか生活を手伝う犬だよな……



盲導犬が来たら、俺……俺………







もう菘と散歩できないじゃん…!!!








「なんで盲導犬!?え、何?俺は用済みなの?俺の何が不満なの!?」



「ちょ、ちょっとおそ松兄ちゃん落ち着いて……」



「これが落ち着いてられるか!!乗り換えなんてお兄ちゃん絶対に許さないぞ!!」



「乗り換え!?えっ!?何の話!?」





菘の肩を揺さぶり、涙を浮かべながら訴える。


浮気、ダメ、絶対!!




「ちょっ…ちゃんと話聞いて?

 私は、いつ何があるか分からないから、必要になった時にどうすればいいのか知識を持っておきたくて聞きに行っただけだよ!

 何の心配をしてるのか知らないけど、不満とかそういうんじゃないから…!」



菘が一生懸命説明するのを聞いて、俺は揺さぶるのをやめ「本当…?」と甘えた声で反応を窺う。


菘は「本当、本当!」と大きく頷いてみせた。




「俺が散歩の時うるさいこととか、手汗激しいこととか、好き勝手歩いちゃうこととは関係ない!?」



「うん。関係ない、関係ない」



「お兄ちゃんより犬の方が可愛いからとか、そういうことじゃない!?」



「う、うん……。ぷっ……!あはは!」





笑いが堪え切れないといった風に菘が吹き出し、おかしそうに腹を抱えて笑った。





「ちょっと!こっちは真剣に聞いてんだけど!!」



「……はぁ〜……ごめん、分かってるよ、それが余計に面白くて……ふふっ……」



「菘酷い!!」




笑いすぎて目に浮かんだ涙を拭う菘。そんなに笑うことないじゃん……。


無意識にムスッと口を尖らせて菘に弁明を催促する。




「だから…、兄ちゃんに不満があって盲導犬を調べてたわけじゃないの

 兄ちゃんと散歩するのは楽しいし、兄ちゃんの湿った手も…好きだよ?」




………!!



好きだよ?……だって!!!



心臓がきゅぅぅんってなったよもうっ!!


なんだ。


なんだこの可愛い生き物は!!


手汗、バンザイ!!!!!!





「兄ちゃんも………


 兄ちゃんも菘と散歩するのが好きだーーー!!!

 っていうか菘が好きだーーーーー!!!


 菘ーーーーーーーー!!!!!」



「う、おそ松兄ちゃん、ちょっと苦しい…」





全力でハグして気持ち良さを堪能していたが、さすがに呼吸苦を訴えた菘に俺は抱く力を緩めた代わりに頭をワシャワシャと撫で回す。


菘可愛い。





「…兄ちゃん、今から散歩行く?」



「えっ!」





撫で回す手に髪を乱されることにも動じず、菘がにっこりとそう言った。


そう来るとは思わず俺は一瞬フリーズする。




「…寂しかったんでしょ?」




コテン、と首を傾げられそう聞かれては、男としてはもうたまらない。

ここで断れる奴いんの?俺なら例え100度の熱があっても行くね。




「……行く!!行きたい!!行こう!!」




喜びを隠しきれず浮かれた声を上げ、菘の小さな手をとる。




「うん!」




菘が笑顔で頷くのを見て、ただの散歩だというのに胸を躍らせながら外へ出た。




・・・・・・




街中の広い通り。


俺は菘の可愛いお手々を繋いで歩いていた。



「タイ焼き売ってるけど、買ってく?」


「いいね。でも一つだと多いから、半分こして食べたい」


「へへへ〜…いいよぉ〜」



俺今キモい顔してんだろうなぁと思いながらもニヤニヤが止まらない。


半分ことか可愛すぎだろ。


俺はお前を食べたいです。




「いろんな味あるみたいだから、一緒に選びに行こ……


 ………ん?なんだ、あの人だかり」



「なんか騒音が近付いてくるね。なんだろう?」




タイ焼き屋に近づこうとした時、進行方向から凄まじい人の群れが向かってくるのが見えた。


何?祭り?イベント?



俺は菘を背に庇い遠目に集団を見つめる。




「サインくださーい!!」

「こっち向いて!!」

「マジで?本物?」

「え、嘘!橋本にゃー!?」

「写真撮ろう、写真!!」




どうやら、撮影の移動中だった有名人にそのファンや野次馬が群がった結果の集団らしい。


ふーん、あれが有名タレントか。顔は結構普通だな。菘の方が可愛い。


そんなことを考えていると、集団がぞろぞろと俺達のいる方に向かってきた。


え、そんなに広がって歩いてくんの?待て。このままだと…巻き込まれる。



後ろ手に手を繋いでいた菘へと振り返り、肩を抱いて道の端に避けようとする…


……が、



「…あっ、」



「菘!!」




白杖を落とした菘が拾おうと屈み、その瞬間、俺達の手は離れ…集団に飲まれてしまった。




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