世界一妹

□究明!妹の謎
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《トド松視点》








「母さん、僕の新しいシャツ知らない?洗濯に出したはずなんだけど」






僕の買ったばかりのシャツが、洗濯後に紛失してしまった。


一昨日脱いで、昨日には洗濯機にかけられてたはずなのに!


結構いい値段のするシャツだっただけに、深刻な面持ちで母さんに詰め寄る。




「えぇ〜?母さん知らないわよ。トド松が新しいシャツ買ったことも知らないし」



「見慣れないやつなかった?白いYシャツ!」



「白?ああー…じゃぁ間違って父さんのところに入れちゃったかも」



「えー!?父さんのサイズ感じゃないしオシャレなデザインだから僕のだって分かるじゃん!」



「母さん分かんないわよ」




少なくとも父さんのではないことは分かるよ!と主張すると、やれやれと母さんがシャツを探しに行った。


……「文句言うなら自分で片付ければいいでしょ」。そう言われない辺り、もう僕が不動のニートだということは理解されているみたいだ。







「お母さん、どうしたの?」






と、鈴の転がるような声が聞こえた。


菘いたんだ!と、それだけで足取り軽く、二人のやり取りを覗き込む。




「あら菘、ちょうどいいところに。トド松が白いシャツを探してるみたいなんだけど、父さんのところにも見当たらなくて」




母さんが落胆した様子でそう言うと、菘が「あ!」と声を上げた。




「さっきね、お父さんが"見たこと無いシャツが入ってる"って言ってたの。

 それで、私がトド松兄ちゃんのだって分かったから畳んでタンスにしまっておいたよ」



「あら。そうだったの!ほら、トド松ー!聞いてた?」



「聞いてた。ちょっとタンス見てくる!」




さっきってことは、僕が探して回っていた時にすれ違いでしまってくれたのだろう。



早速タンスを確認してみると、確かに僕が探していた白シャツが綺麗にしまわれていた。




さすが、菘は有能だなぁ。


母さんでさえ持ち主の分からなかったシャツなのに、よく分かったなぁ。


買ったばかりだから菘にも披露したことないしな。うーん、よく分かったなぁ……






……うん……なんで分かったんだ……?





考えてみると極めて不思議な話だ。


…菘は全盲だ。謂わば、色も形も何も見えない。


手触りで物を判断することは多々あるが、服を触って誰の物なのか…分かるか?


それに彼女は家事を母さんと協力して行っていて、日によっては洗濯物を畳んで各人のタンスにしまうところまでやっている。


…どうやって仕分けていたんだ?


僕達六つ子は、色違いの服を着ることも多い。


全盲の菘に色は区別がつかないはず。感触はどれも同じだろうし…。



…透視能力?いやいやまさか。違うよな……




……ヤバイ、めちゃめちゃ気になる。



菘はどうやって洗濯物を区別してるんだ?







「菘ってどうやってみんなの洗濯物区別してるの?」




「え?」





本人に訊いてしまった。




「えっと……うーん……」



本人に訊けば一番手っ取り早いと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。




「ちょっと、恥ずかしいから言えない……///」




頬を両手で覆ってそう濁す菘。



待て。僕には言えないような恥ずかしい手段で区別を…!?


…なんかよく分かんないけど興奮してきた。



ダメダメダメダメ!!目の前に菘がいるのに!!その想像を膨らませるのは夜にしよう。今はいかん。











「……ってことがあったわけ」




「なにそれ。可愛い。ちょっと抱いてくる」



「十四松、卍固め」



「あいあい!」




兄達にそれを話してみると、皆たしかに不思議だと考え込んだ。


自分が盲目だったらどうするかなーと目を閉じて考えてみるが…さっぱりだ。


僕だったら母さんに丸投げするが……菘は自分でやっている。




「誰か菘が仕分けしてるところ見たことないの?」



十四松兄さんにキメられているおそ松兄さんを横目に聞いてみたが、そもそもそこを意識して見ようという発想は誰も持っていなかったようだ。




「菘が洗濯物担当の時に尾行すれば分かるんじゃない?」



「交尾だと!?」



「おそ松兄さんは黙っててくれる?」



「はい」



百聞は一見にしかず。


僕達は、菘の動きを追うことにした。




・・・・・




「隊長…ホシが動き出しました」



「よし……。相手は音に敏感だ。息を殺して慎重に進め」



昨日の作戦会議では、洗濯物を取り込むタイミングは午後3時頃だという情報があった。


そして今、午後2時58分……聴いていたラジオを止めて菘が動き出した。


まずは下手に近付いて気配を察知されないよう離れて様子を見る。




「よいしょ…」



家族9人分の洗濯物は多い。


ピンチハンガー4つにごっそりぶら下がる洗濯物を見ると、あれを毎日処理する母と菘の偉大さを思い知る。




「あんなに一生懸命背伸びして取って……ッ!」



「手を貸したくなる…っ」



「フッ……俺は時々手伝ってあげてたぜ?」



「俺も俺もー。でも取り込んだ後は、やるからいいよって言われるんだよなぁ」




兄達も、菘が頑張っているのを見かけた時はわりと手伝っていたようだ。


ただ畳む姿は誰も見たことがないという……。


……おかしな話だ。




「……ふぅ」



菘が一通りの洗濯物を取り込み終えると、それらを入れたカゴを持ち運び始めた。


どこへ行くんだ?


僕達はすかさずアイコンタクトをし、少し距離を置いて菘の後をつける。




「………」




菘は自分の部屋に入っていった。……ご丁寧に、襖まで閉めて。




「……おい」



「どうする……見えないぞ」



「ちょっと耳を当ててみようよ」





「……………」





六人の男達が襖に耳を当て集中してみたが、誰一人としてピンと来ない。


そりゃあ洗濯物を畳むのに音なんてそんな出ないよね。



さて、どうしたものかと六人で顔を見合わせる。



鶴の恩返しさながらのこの状況。


開けて見てしまった時、鶴はどうしたんだっけ?


……本当の姿に戻って家から去って行ってしまったんだっけ。


童話を思い出して、いやいやそんなん現実であるわけないでしょと自己完結する。




……このままでは埒が明かない。




僕は意を決して、できる限り音を殺して襖をゆっ…くりと開けた。


菘が見えるまで慎重に開けていき……あっ、見えた!


ほとんど後ろ姿というアングルではあるが、菘の姿を捉えた。



六人が息を呑んでその後ろ姿を観察する。




洗濯物の中に、六色のパーカーがある。


ちょうどいい。さあ、菘……どう仕分ける?




菘は手探りで紫色のパーカーを手にした。


感触でパーカーだということを確認したらしい菘は、次にそれを顔の前に掲げた。


…というか、ほとんど顔を埋めているように見える。



……え。



驚きが声に出なかったことが幸いだった。



菘は数秒そうしていたと思ったら何事もなくパーカーのシワを伸ばして畳み始めた。



次に手にとった緑色のパーカーも、同様に掲げて顔に近づける。……そして畳む。



そしてパッと見誰が誰のか僕達でも迷うだろうインナーも、顔の前に掲げては各色のパーカーの上に重ねて並べていた。




これは……もしかして……




  匂いで嗅ぎ分けている……!?




兄弟全員が同じタイミングで気付いたらしく、ポカーンと口を開けて顔を見合わせた。



マジで?菘、全員の匂い把握してんの?しかも洗濯後のやつ匂い分かんの!?


いつも健気に一枚ずつクンクン嗅いで仕分けてたの?




何それ…… 超 可 愛 い じ ゃ ん ……!?





…ん?待てよ。



気付いた瞬間、僕は自分が今着ている服も菘に匂いを嗅がれていたのかとハッとして自分で匂いを嗅いだ。




…臭くないよね?僕……臭くないよね!?




兄弟皆考えていることは同じなようで、周りでも一斉に嗅ぎ始めた。



そして菘が次に手にしたものが見えた瞬間……





「ブフッ!!ゲホッゲホッ!!ゴホッゴホッゴホァッ!!」





……僕は盛大に吹き出し、盛大に噎せた。




それ…… 僕 の パ ン ツ ……ッ!!!





「え、誰!?……トド松兄ちゃん?」



「ゲホッ、ゲホォ…ッ」




うん、まぁバレるよね。



唾が気管に入ったらしく死にそうなむせ方だが、それでも僕だと分かる辺り菘の聴き分けは本当に高性能だ。




「何してんだよトッティ!!」



「バレちゃったじゃないか!!」



「ゲホ、ゲッホォ…!!」





「え?みんないるの?何、何?」




菘が僕のパンツを置いて戸惑いながらこちらの方に向いてキョロキョロする。


あー、置いたかー。


僕のパンツの匂いを嗅いでるところ……見たかったような、見ずに済んで良かったような……。





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