世界一妹

□幸福の保証人
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《菘視点》










血の繋がった兄との真剣交際は、いけないことなのだろうか。



やっぱり一般的には咎められるようなことなのだろうか。



あまりにも悶々としたものだから、直接おそ松兄ちゃんに訊いたことがある。






「ダメって言われても、俺がそうしたいんだもん」






…何か間違ってる?とでも言いたそうな顔でそう言われた時には、私も何を一人で考え込んでいたんだろうと馬鹿らしく思えたものだ。



おそ松兄ちゃんって、発言は軽いけど不思議と前向きにさせてくれるんだよね。なぜだか納得してしまう。




…とは言っても、世間への後ろめたさは拭いきれないところはあるけれど。





家族にはきちんと二人で告白した。兄達と口論になってでも、真剣であることを伝えた。



家族が反論を唱えなくなるまで、1ヶ月はかかったと思う。




そんな彼らに一番効いたもの……それは間違いなく"おそ松兄ちゃんの変化"だろう。



あの"仕事アレルギー"であるおそ松兄ちゃんが自ら働き始めた時は、松野家のみならず地域一帯がざわついたものだ。



二人で生活する為だと覚悟を決めれば案外仕事にもやり甲斐を覚えてきたようで、おそ松兄ちゃんは何かにつけて私に自分の活躍をひけらかしてくる。



…ちょっとうざいけど、そういうところも好きだ。








そうして二人での生活も徐々に慣れてきた頃……







私は一人、ある悩みを抱えていた。





















「………来てない、よね………」






















生理が、来ない。




もう予定日から2ヶ月になるか。






「……………」






もしかして、と思った。



でもドラッグストアとかで売っているような簡易的な検査は私には視認できないし…やっぱり行くしかない。



もう悩んでいても仕方ない。思い立ったらすぐ行動。






…私は勇気を出して、産婦人科を受診した。


















「おめでとうございます。」

















――エコー結果を診た医師は、そう言って私に微笑みかけた。











・・・・・







「……………」





一人帰宅した私は、呆然と立ち尽くす。





「……私、赤ちゃん、できたの……?」





もう三ヶ月、だそうだ。



まだ現実味が湧かないが、どうやら夢でもないらしい。




無性に自分のお腹の中の存在が愛おしく感じると同時に、一途に喜びきれない感情に戸惑いを覚えていた。








近親での妊娠――…。



ましてや私は生まれついての盲目。







これから産まれてくる赤ちゃんが、もし障碍を持って産まれてきたら……?



例え私が受け入れて育てても、我が子に産まれてきたことを後悔されてしまったら、私は――……。







自分の情けなさに苛立った私は、うううと唸りながら髪をボサボサに掻き乱してベッドにダイブした。



あ…赤ちゃん、ビックリさせちゃったかな。ごめんね、赤ちゃん。



………ごめんね。







頭の中でぐるぐると考えながら、ダイブしたままの体勢で死んだように過ごし……30分くらい経っただろうか。







「たっだいまー」







仕事を終えたおそ松兄ちゃんが帰ってきた。





「おかえり」と力なく答える私に何か感じ取ったのか、おそ松兄ちゃんが駆け寄ってきて同じくベッドにダイブした。



もはや力が入らない私は揺れるベッドに体を預ける。








「菘〜?」







おそ松兄ちゃんの声が頭上すぐ近くから降ってくる。



寝転がりながらも、頭を撫でてくれる手が心地よい。






「どうしたの。」






優しい声色に、思わず涙が出そうになる。






「なんでもない、は無しだぞ」





…ちょっと言おうとしてただけに、私は分かりやすく沈黙してしまった。



それを察したおそ松兄ちゃんが「図星か!」と私の髪をワシャワシャ乱しまくる。




「なぁ〜、お兄ちゃん寂しいから何か言ってよぉ」




ぎゅっと抱きついてきてそう切実な声を出すものだから、隠していることに胸が痛んできた。







「おそ松兄ちゃん……」







よろよろと起き上がると、おそ松兄ちゃんも私の背に手を添えて起き上がったのが分かる。



二人並んで座り込んだまま、数秒の沈黙が流れる。





なんて言おうか。




"赤ちゃんができた"と言って重い空気になったらどうしよう。


その空気に、責められているように感じそうだ。


事実を述べるより先に"赤ちゃん欲しい思う?"とかなんとか質問して出方を窺うか?


…でも、すでにこんな空気感を作り上げてしまった以上、そんな質問をして察しない兄ではないだろう…。


何より、今"ここ"にいる命に対して失礼だ。







覚悟を決めよう。
















「おそ松兄ちゃん、あのっ、私ね……




















  赤ちゃんができたの!」






























…………………。






…………。























長い沈黙。






いや、私が緊張するあまり長く感じただけでほんの数秒なのかもしれないが…






おそ松兄ちゃんは今どんな顔をしているんだろう…。







沈黙が続く中、不安が募る。








が、










「……………っ、











 ………えっ、…マジで……?









 マジで? …マジでマジで!?











 うおおおおっ!!! やったぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」















ようやく意味を理解したおそ松兄ちゃんが歓喜の声を上げ私に飛びついてきた。








喜んで迎え入れてくれたおそ松兄ちゃんに、張り詰めていた気持ちが一気に解ける。










ああ…良かった。本当に。














この人で良かった。
















「……おそ松兄ちゃん、ぐるじい」






「えっ!?あっ、ごめんごめん!!妊婦さんは大事にしないとな!!」







きっとニカッと笑って言ってるんだろうなぁと推測できる嬉しそうな声色。





うん、私も嬉しいけれど細かいこと言うと妊婦でも妊婦じゃなくても大事にしてね。



…なんて、今までの箱入りっぷりを思い出したら言うだけ野暮かな。









話の区切りとしてひとつ深呼吸をする。












「…これから、いろんなこと話し合わなきゃいけなくなる…ね」










と、これまた野暮な、でも避けては通れない話をおずおずと切り出してみる。



面倒事が嫌いなおそ松兄ちゃん、これはさすがに溜息のひとつでもつかれるんじゃないかと思った。



















「そうだな!よっしゃ〜、一緒にガンバろう!!」














目の前の彼は、なんだかえらく幸せそうだった。
















「……ありがとう、おそ松兄ちゃん」


















ちょっとだけ涙が出そうだったのを、笑ってごまかした。











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