世界一妹

□はじめてのおつかい
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《一松視点》








「おそ松ーーー!!ちょっとおつかい頼まれてーーー!!」





一階にいる母さんの声が二階まで響き渡る。





「……………。」




「………おいおそ松、呼ばれてるぞ」




「いや……俺、トド松だから……」




「僕がトド松だよ!!さっさと行ってきなよおそ松!!」






ランドセルを枕にしてくつろいでいるおそ松が、「えぇぇ〜…」と怠そうに寝返りを打つ。





「なんでいっつも俺なんだよぉ……長男ってほんと損だよなぁ……」



「僕この前行ったもん。母さんにおそ松に間違われて行ったもん」



「僕達もう10歳なんだから。大人になろうよ」



「めんどくせぇ〜…大人にならなくていい〜……」





ランドセルを腹に抱えてゴロンゴロンと転がるおそ松。



……まぁ確かに、同い年なのに長男のおそ松はよく頼まれている気がする。


長男じゃなくて良かった〜。






「あら!菘!…えっ!?

 危ないわよ、ひとりでおつかいなんて…!」





………菘、だって?




一階から母さんのでかい声が届き、僕達は耳をピクリと動かす。



おそ松もゴロゴロを止めて顔を襖の方に向ける。





「………おい、おまえら」



「……おう」



「……おう」




おそ松に先導され、僕達は忍者のような歩き方で一階へと降りていった。





「おそ松に行かせるからいいわよ。無理しないで、菘……」




「ううん。わたしもお母さんのお手つだいする」




「外は車が走ってるのよ?」




「うん」




「……犬もいるわよ?」




「うん」




「………。

 ………………、」





母さんが押し負けて黙ってしまった。


いいのか?母さん!





「ねぇ、なにを買うの?」




「んーと…

 豚バラ肉と、牛乳と、ヨーグルトと……

 覚えられないわよね!このメモ持っていってちょうだい!」




「おかあさん、わたしメモ読めないの」




「あら!!ごめんなさい!!」




「わたし、おぼえられるよ」




「菘ちゃんは賢い子だものね!えーっとね?まず豚バラ肉と……」




母さんの読み上げる買い物リストを、菘がうんうん頷いて聞いている。



僕だったら1個しか覚えられない…。


兄弟で1人1つずつ覚えればいいやって思っちゃうなぁ。





「わかった。いってきまーす」



「車と犬と変な人には気を付けるのよ〜!!」



「はぁい」





「……よし、いくぞ」



「…おう!」





家を出た菘の後を10秒遅れくらいでついていく僕達六つ子。



菘の装備は、首にがま口財布を提げて、右手に白い杖。左手は3年前の誕生日にみんなであげた"くまのぬいぐるみ"と手を繋いでいる。



……ぬいぐるみ、いるか?



ご機嫌そうに歩いてるから、まぁ、いいか。





さて、さっきの買い物リストから言うと行き先はスーパーだよな。



いちばん近いスーパーって言うと……あかつかマート?





「ねぇ、あかつかマートってどこだっけ」



「この前の日曜にみんなで行ったろ。ほら、あの……なんか……いろいろ曲がったとこだよ」



「チョロ松も覚えてないじゃん!」



「俺たちでも覚えてないのに、菘は大丈夫なのかぁ?」





みんなで心配そうに菘の小さな後ろ姿を見守る。



その足取りに迷いはなく、足元の黄色い点字ブロックをなぞってまっすぐ歩いている。



すると菘の歩く先、点字ブロックの上ど真ん中に自転車が置かれているではないか。





「おい、あれ危ないぞ」



「僕どけてくる!」



「待て十四松。これは菘にあたえられたシレンなんだ。ぶつかって転んだとしても、立ち上がる強さをみにつけなければならないんだ」



「でもカラ松、菘がケガしたりしたら……!」




そうこう喋っている間に、菘の白杖が前方の自転車にカツンとぶつかった。


菘はピタリと歩みを止める。




「すみません。」




菘は自転車にぺこりと頭を下げて、白杖で位置を確認しながら回り込んで自転車を避けた。



すごい。菘は目が見えなくてもひとりで外を歩けるんだ!



そして菘を追いかける道すがら、僕はさり気なく自転車を点字ブロックの外側に避けておいた。


大人なのにルールの守れない奴は自転車に乗るな!!





「あ、信号が赤だぞ。菘止まれるかな?」



「大丈夫だよトド松。菘は耳がいいから、車が通る音で分かるよ」




じっと見守っていると、確かに菘は横断歩道の前でぴたりと足を止めた。


えらい!えらいぞ菘!!



そして信号が青に変わり、同じ方向に向かう車が走り出す音を聞くと菘も歩き出した。




「よしよし。ちゃんと手を挙げて渡ってるな」



「俺なんか逆立ちで足挙げて渡れるぜ!」



「危ないからやめろよおそ松」




菘と距離をとって歩いていたら信号が点滅してしまい、僕達は「いそげ!」とパタパタ走った。



さっきより少し接近した菘が一瞬立ち止まり後ろを振り返る。




「まずい、バレたか?」




が、何事も無かったように歩き出した。


僕達は思わずほっと胸をなでおろす。声は抑えて、足音も殺した方が良さそうだ。





「あっ、あそこの家……ブサイクな番犬がいる家だぞ」



「通るといつも吠えてくるブサイクな奴か!」



「寝顔もブサイクだぞ!」





菘が歩いている道と番犬がいる門の距離はごく近い。


繋がれているから襲われることは無いとは思うが…菘は無事通過できるのか?





「頑張れ菘!」



「鎮まれブサイク!」




僕達の祈りが届いたのか、菘が通過しても犬は吠えずに大人しく伏せていた。



良かった!菘は大きな声が苦手だから、吠えられたらきっと泣いてしまったことだろう。




僕達も安心して尾行していく……が、




「バウバウ!!バウバウバウ!!!」




「うわっ!?なんでだよ!!」



「鎮まれ!鎮まれ!!」



「ヴゥゥゥ……バウバウ!!バウバウ!!」



「うわーーーーーー!!」




なぜか僕達が通る時は急に不機嫌になり噛みつかんばかりの勢いで吠えまくってきた。



犬ってのは心まで読めるのか?ブサイクって言ったことがバレてしまったのかもしれない。





……はっ!


菘は?菘はどこに?



逃げることに必死で菘を見失ってしまった!


見えないところでヘンテコなオッサンに誘拐されてたらどうしよう!?




「菘は!?」



「曲がったのか?」



「見て!歩道橋!」



「あっ!いた!!」




菘はいつの間にやら歩道橋の階段を登っていた。


階段なんて危ない道選んだのか、菘は。転げ落ちたら大変だ。回りこむべきか?いや、尾行がバレてしまう…。




菘はペースを落とさずにテクテクと歩き続ける。





「アラ!六つ子の妹ちゃん!ひとりでお出かけざんすか?」




げッ!!ヘンテコなオッサンに声かけられてる!!




「こんにちは。いやみさん。今日は、おつかいです」




怪しいオッサンにも菘はぺこりと丁寧に挨拶をしている。


なんて上品なんだ。でも気に入られると誘拐されちゃうぞ…、本日最大のピンチだ。




「いい子ざんすねぇ〜!どっかの六つ子とは違うざんすぅ〜

 足元に気をつけて……どれっ、ここはミーが手を繋いで……」




うわ!まずい!菘の手が汚れる!!




「ありがとーございます。でもだいじょうぶです。手すりがあります」



「そ……そーざんすか?でもミーの温もりてぃーな手もなかなか捨てがた……」



「では、さきをいそぎますので。」




ぺこりとお辞儀をして歩き出す菘。


一番のピンチも自力で突破だ!!すごいぞ菘!!大人の対応で変質者を追い払ったぞ!!




「チビっこにあんな礼儀正しくされると、調子狂うざんす……」




「出っ歯のイヤミだ!!やーい出っ歯出っ歯!!」



「あっ!?お前は、一松!!」



「いや、一松はこっち。そっちはおそ松だよ」




「生意気な奴らざんすぅ!!妹ちゃんの爪の垢を煎じて飲んだ方がいいざんすよ!!」




「はぁ〜?菘は綺麗だから爪にアカなんて無いよ」



「そういう意味じゃなくてぇ……」



「僕毎日菘の手握ってるから知ってるもーん」



「やーい出っ歯出っ歯!!」




「あーーーーうるさいガキざんすううう!!!シッシッ!!あっち行くざんすよ!!」




変なオッサンに追い払われ、僕達は小走りで菘との空いた距離を詰めた。


よかった、まだ近くを歩いてた。下り階段も無事クリアーしたみたいだ。





「それにしてもあかつかマートってこんなに遠かったっけ?」



「ゆっくり行くから遠く感じるんだよ。菘は僕達みたいにすばしっこくないから」



「菘はなぁ、ユウガなんだよ。じょーひんに歩くの」



「べつに遅いことを悪く言ったわけじゃないってば」





優雅に足を前に進める菘……


……そして、とうとうあかつかマートに辿り着いた!




「入っていったぞ!見失う前に近付くんだ!」



「ラジャー!!」






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