短編
□Mayor Que Yo
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「あ、一松。居たの」
「……居た」
なに、おかしくない?おかしいよね。つい最近僕が飽きちゃって別れたらさ。ねえ。おかしいって。
「チョロ松兄さんどこ行ってたの?」
「え、え?ハロワ、だけど?」
嘘だよ。声上ずってるじゃん。動揺してるじゃん。
十四松程じゃないけど、その匂い、その甘くて誘うような香水とさ、優しい石鹸の匂い。すごくするよ。なにそれ。
「なに、チョロ松兄さん年上が好きなの?」
「は?」
チョロ松兄さんが僕を訝しげに見てきた。
なんの事を話してるか分かってるでしょ。すっとぼける気?
「名無しさんの事は、もう一松には関係ないだろ」
「は?」
今度は僕が間抜けな返事をした。
「どういう意味?」
「元カレに言う必要がないってこと」
あの人とこの兄さんとの出会いは、一緒に出掛けてた時に偶然出くわしてしまった事によってだった。
チョロ松兄さんはクソダサい私服(人の事言えないだろうけど)で、趣味の買い物帰りだった。チョロ松兄さんは会釈して帰ろうとしてたのを、僕が引き留めてカラオケに誘って三人で行った。
と言っても、カラオケに言っても僕は名無しさんの膝に頭を乗せてソファに体を乗せて足を曲げて寝てたけど。
「チョロ松兄さん、弟のお下がりでもいいんだ」
「好きに言ってな。夕飯は早めに名無しさんの家で食べたから皆に適当に言っといて」
チョロ松兄さんががーっと話して、最後にと付け加えて続ける。
「僕は一松と違って本当に好きだから付き合ってるから」
カラオケの後、二人で帰るときに言われた。カラオケの代金を三人分を当然のように払わせて一番に出た。二人がレジで話しているのを見て、チョロ松兄さんが頭を下げてた。
「なあ一松。お前なんか恥ずかしいとか思わないわけ?」
「ん……思わない」
「え、お、思わないんだ。本当に付き合ってるの?」
「うん」
「好きだから付き合っているんだろ?」
「いや、好きではない」
「は?」
「いろいろくれる」
「はぁ!?」
その後の長い説教を聞き流してた。
そこからチョロ松兄さんはなにかと彼女について言ってくるとは思ってたけど……。
てか待って、家に行った?僕行った事ないんだけど。全部外で会っていろいろ外で済ませてたし。
襖が閉められた音にハッとした。
階段を音を立てて上っていく音がした。怒ってんの?怒りたいのこっちなんだけど。