短編
□Mayor Que Yo
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別に最初は好きだからそうなったわけではない。
「名無しさん」
「なぁに一松君」
頭を優しく撫でてきた名無しさん。彼女は僕の少し年上。
最初は好きだから付き合ったわけではなかった。
ただ、なんとなく付き合った。
「一松君、今日は元気?」
「まあ」
大人の女性っぽい甘くてクラっとする香水の匂い、その優しく撫でる手つき。その僕を大切そうに見る目付き。
大人の余裕を持った年上の彼女。
ことの発端はなんだっけ。そもそもどうやって会ったっけ?
そうだ。スーツの名無しさんがトッティのバイト先だったスタバァに居たんだ。僕さえめったに行かないのに、何故かそこを歩いてたら中に甘ったるそうな物を飲む彼女が居た。
ボーッとその様子を見て、彼女が飲み終わったそれを処分して出てきたところで僕に話しかけた。
「どうしたの?」
何かがおかしいかのようにボーッとする僕を見てクスクスしてた。
「飲みたかったの?」
そんなわけない。いや、でも、なんだ。僕ってそんな面白いのかな。だからクスクスしてるの?それともこんなゴミか見世物みたいだから笑うの?
「別に」
思いの外ぶっきらぼうに言ってしまった。
彼女はちょっと待ってて、とか言っちゃってまた中に入っていった。
なんで待たなきゃいけないの?これ帰っちゃっていいよね。とか思うけど、どうしてだか大人しく待った。
「はい」
暫くして彼女はさっき飲んでた物の新しいのを手渡してきた。
「え?なにこれ」
本当になにこれ。これをどうしろって言うの?
「飲みたかったんでしょ?」
にっこりと微笑んで、まるでお母さんのような母性の塊の笑顔を向けられた。
(まぶしっ)
おそるおそる受け取った。
「お礼とかなんもできないんだけど」
お金ないし。
彼女は目をパチパチして、まるで僕の返答に驚いた感じだった。
「そんなの気にしなくていいよ」
「……タダでもらうわけにはいかないから」
ここで封印されし僕の真面目な性格が出てくる。だってこの人無理矢理渡してきたじゃん。勝手に買ったようなもんでしょ。なんでお礼の事気にしてんの?僕は。
「じゃあ、私と恋人になって」
「は?」
悪戯っぽく、誘惑するような艶やかな笑顔をした。なんだこいつ。
「な、なんて」
「いいけど」
「え?」
否定はしない。僕には僕を好くような彼女なんて居ない。興味ないなんて言ってても、本当は興味あるし。女の子は好きだけど、この人女性ってレベルだよね。
「毎回なんかくれたらいいよ」