落花流水 〜過去篇・壱 遭逢の時〜 

□*第拾弐幕* 誕生日
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「ちょっと、休憩するか」


「うん。あ?!そうだ、御饅頭持ってきてたの」


「饅頭?」


「うん、餡子が中に入ってて美味しいの。
銀時お兄ちゃんに持ってきたのに…」


少し俯く悠凜。


「どうした?碧と瑠璃が持ってんのか?」


「ううん…」


「?」


悠凜は着物の袖から、紙に包まれた物を出した。


「コレなの…」


ゆっくりと紙の中を開く。


「…潰れてるな…」


「う、うん。ごめんなさい」


悠凜は涙目になっていた。


(涙目の悠凜も可愛いんだけど…)


「大丈夫。食える食える」


銀時は潰れた饅頭をパクッと頬張る。


「…ぅん…うまい!」


「ほんと?」


「ああ、ほら、お前も食え…ゴホッゴホッ」


「あ?!お水!」


悠凜は庭の井戸まで走って、水を汲んできた。


「は、はい…」


「ぅ?!ゴホッ…ゴクゴク…。はぁ…」


「クスッ、銀時お兄ちゃん、急いで食べ過ぎだよ」


「…美味かったんだから、仕方ねぇだろ」


悠凜はクスクス笑っていた。


(やっぱ、この笑った顔が一番可愛いな…)


「笑ってると、お前の分も食っちまうぞ」


「え?!やだ〜」


悠凜は慌てて、一個御饅頭を取る。


「ははは、食わねぇよ」


二人で仲良く御饅頭を食べ出した。


食べながら、庭を見遣る銀時。


(百合の花見れるのは来年か…。
つうーか、あの黄色い葉っぱ邪魔だな)


百合の球根が埋めてある場所の上を、黄色い葉っぱが覆っていた。


(あの葉っぱ片付けるか…)


「ん?どうしたの?」


御饅頭を食べ終え、立ち上が銀時に悠凜が声を掛ける。


「ああ、あの葉っぱ邪魔だからよ、片付けるわ。
あんなにあったら、来年、百合の花咲かなくなるかもしんねぇ」


「え?葉っぱ?」


悠凜も庭を見遣る。


「あ?!イチョウの葉っぱが、たくさん」


「イチョウ?」


「うん、その黄色いの」


「ふ〜ん」


「片付けなくても大丈夫だよ。
土の肥料になるんだって父上言ってたよ」


「え?そうなの?」


「うん、お家でもそのままにしてるよ」


「へぇ〜、そっか。なら、大丈夫だな。
来年のお前の誕生日には咲くな」


安心した銀時は縁側に座り直し、悠凜に微笑む。


「うん、悠凜の誕生日覚えててくれたの?」


「ああ、7月10日だろ?」


「ありがとう」


ニコッと微笑み、ぎゅっと抱きつく悠凜。


「お、おう」


(不意に抱きつかれると照れる…。けど、嬉しいな)


ニヤける銀時。


「ねぇ、銀時お兄ちゃん?」


「ん?」


「お兄ちゃんの誕生日っていつなの?」


「へ?誕生日?…」


「うん」


(…自分の誕生日なんて、考えたこともねぇな…。
まぁ、知らねぇけど…)


「…知らねぇ」


「?…そう…なの?じゃあ、今いくつなの?」


「年は……6、7歳ってとこなんじゃねぇの?」


(松陽もそのくらいって言ってたしな…)


「そもそも…俺、親いねぇから、いつ生まれたかも知らねぇ…。
ほんとは名前も適当だし…この髪…銀色だろ?
皆に気持ち悪いって疎まれた鈍い銀色……
だから、逆に名乗ってやってる」


(悠凜の事だ…『可哀相銀時お兄ちゃん?!』とか言って抱きしめて……)


「銀時お兄ちゃん!」


(ほらッ!きた!!)


悠凜に視線を移す…。


(え?…)


悠凜は銀時に笑顔を向けていた。


「ゆ、悠凜…?」


「銀時お兄ちゃん。誕生日知らないなら私が決めてもいい?」


「え?決める?別に構わねぇけど…」


(こいつ、俺の話聞いてた?慰めるとこじゃねぇのかよ?!)


「う〜んと…」


悠凜は何やら考えているようだった。


「な、なぁ悠凜?」


「なあに?」


「お前、俺の事可哀相とか思わないの?」


悠凜はきょとんとしていた。


「え?どうして?」


(どうしてって……、そうだよな…親がいるこいつにはわかんねぇか…)


「いや…なんでもねぇ…」


銀時は少し残念そうに溜息をついた。


「可哀相なんて思わないよ」


悠凜は銀時の手を握ってきた。


「だって、父上、母上いなくても…悠凜がいるもん。
悠凜がずっと銀時お兄ちゃんといるから寂しくないでしょ?」


いつもの満面の笑みで微笑む悠凜。


ドクンッ


心臓が飛び跳ねる。


(な?!なななななな何言っちゃってくれてんの、この子?!
…ああ〜、天然だよ…。天性の男誑しだよ……やべぇよ…。
心持ってかれたよ…可愛いすぎんだけど)


ふわっ


「それに、銀時お兄ちゃんの髪は綺麗だし、
『坂田銀時』って名前カッコいいよ」


銀時の髪を撫で、屈託のない笑みを見せる悠凜。


(――――……こいつ、どんだけ人の心に入ってくんだよ
……もう、消えねぇ…。
お前のこと誰にも渡したくねぇ…)


ぎゅっと悠凜を抱きしめる銀時。


「…どうしたの?…銀時お兄ちゃん」


「…なんとなく、寒いから暖めてもらおうと思ってな…」


「寒いの?!」


悠凜も銀時を慌てて抱きしめる。


(クスッ…可愛い。一生懸命暖めてくれてる…)


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