落花流水 〜過去篇・壱 遭逢の時〜
□*第伍幕* 華やぐ心
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格子戸を開けると銀時と同じ年頃の子どもたちが数人いた。
わいわいと騒がしい声が響く部屋。
銀時は刀を持ちながら、いつものように部屋の一番後ろの縁側近くの席に向かう。
壁に背を凭れさせ、刀を抱くように座った。
「なぁ、銀時。書き取りの練習してきた?」
一人の少年が銀時に話しかけてきた。
「ん?んな、面倒臭いことやってねぇよ」
「銀時、また先生にゲンコツされるぞ」
「構わねぇよ」
銀時は眠そうに欠伸をする。
スッと襖が開き、松陽が入ってきた。
松陽の姿を見ると、皆、一斉に自席に座った。
皆が座ったのを確認してから、松陽は話し始めた。
「皆さん、おはようございます。今日は昨日行った復習をしますね」
松陽は柔らかい表情を浮かべ、書物を開いた。
銀時が松下村塾に来て2ヶ月が経っていた。
1ヵ月過ぎたあたりから無料で手習いを教えているということもあり、武家以外の農民・商人の子が少しずつ集まりだし、現在に至る。
銀時も同じ書を開くが、いまだにさっぱりわからない。
(いつ見てもよくわかんねぇな…)
銀時は欠伸をしながら周りを見ると、皆真剣に聞いているようだった。
(ここで読み書き算術とやらを学ぶとか言ってたけど…剣だけでいんだよ…)
手習いは苦手な銀時は、いつものように壁に背中を凭れさせ庭を見る。
白い百合の花が凛と佇んでいる。
『銀時おにいちゃん!』
(…ふっ、あいつ元気かな…)
銀時は綺麗な百合を眺めながら、元気な悠凜の事を思い浮かべる。
(…ほんと、良く笑うチビだったなぁ〜。また、来るかな?)
悠凜の笑顔が浮かぶ。
(悠凜…)
松陽の声が心地よく耳に響き、悠凜の笑顔と温かな日和に意識が遠ざかっていった。