落花流水 〜過去篇・壱 遭逢の時〜 

□*第陸幕* 慕情
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庭に咲き誇る百合の花を眺める銀時。


扇子を広げ優美に動く悠凜が思い浮かぶ。


(…この前の姿は綺麗だったな…)


銀時の顔が綻んでいく。


(『悠然に凛と咲く花』…凛とか…。確かに名は体を表すってこうゆう事か…)


『先生がつけてくれたんだよ』


(ムッ!!…たくッ、気に入らねぇ…。あいつ松陽にべったりだし、まぁ、この前は俺の方に先に気付いてくれたけど……)


銀時は刀を掲げる。


(あいつ、松陽が好きなのかな…。俺、ボコボコにされたの見られてるしな…)


「はぁ〜、もっと強くなんねぇと…」


ピョコ


「銀時おにいちゃん♪」


「ぅわ?!…」


ゴンッ!?


銀時は急に現れた悠凜に驚き、柱に頭をぶつける。


「ぅ?!…いてっ…」


銀時はぶつけた頭を押さえる。


「だいじょうぶ?!」


「お?!お前!!急に、な?!何やって!!声くらいかけろ」


「…こえかけたよ?でも、おへんじないから…」


(俺、気配も感じ取れないくらい、こいつの事考えてたのか…)


「…そ、そーかよ」


銀時は打った後頭部を擦る。


「あたま、いたい?」


悠凜が銀時の頭に触れる。


ふわっ


(?!…)


銀時は硬直した。


「ここ?」


悠凜は銀時の擦っていた個所を撫でる。


「ぃ?!…いい…いいよ。大丈夫だ」


悠凜の手を掴み、彼女から顔を逸らす。


(やっべぇ〜。俺、今ぜってぇ顔真っ赤だ…。見られたくねぇ〜)


「もう大丈夫だから…それより、今日は何しにきたんだ?…またおはぎか?」


銀時は悠凜の手元を見るが、何も持ってなさそうだった。


「あ、ううん、あのね。もうすぐ悠凜のおたんじょうびなの…それでね、銀時おにいちゃんきてくれないかな?」


(誕生日?…俺、誕生会に誘われて…)


銀時の顔がにやける。


「は?誕生日?何で俺がお前ぇの誕生日なんかに行かなきゃなんねぇんだよ」


「…いや?」


悠凜は寂しそうに銀時を見つめる。


「?!…い、嫌って言うか…なんで、俺?…」


銀時は悠凜を期待を込めた視線で見つめる。


「う〜ん…おともだちだから」


(と、友達…)


「あっそ、じゃあ友達みんなで仲良く誕生会ってことか?…面倒臭い。稽古もあるし、俺は行かねぇ」


(なんだよ…友達って…。他の連中と一緒ってことかよ…。なんかムカつく。てゆうか、他の奴も誘ってんのかよ)


「用はそれだけか?おはぎもねぇなら、もう帰れよ」


銀時はイライラして悠凜から背を向ける。


「…」


だが、悠凜の動く気配がなかった。


銀時はチラッと背後の悠凜に視線を送る。


悠凜は瞳いっぱいに涙を浮かべていた。


(う?!やべっ…)


「あ?!まぁ…、お前がどうしてもって言うなら…行ってやっても…」


「どうしたんですか?」


(松陽?!)


いつの間にか銀時の背後に佇んでいた松陽。


「…せんせい」


「悠凜ちゃん?目が…」


松陽が悠凜の瞳に気付く。


「?!…なんでもないです」


慌てて笑顔を見せる悠凜。


「…銀時…」


低い声が銀時の耳に届く。


「何かしたんですか?」


そして松陽は冷笑を浮かべていた。


「ちがうよ。銀時おにいちゃんはなにも…。あ、あのね、せんせい、ことしも悠凜のおたんじょうかいするの。きてくれる?」


「もうそんな時期ですか。7月10日でしたよね」


「うん!」


ニコッと微笑み悠凜の頭を撫でる松陽。


「ええ、もちろん行きますよ。悠凜ちゃんの大事な日ですからね」


「せんせい、ありがとう」


悠凜の顔に笑顔が広がる。


「銀時は…稽古があるから行けないようなので」


松陽は銀時に呆れたような表情を浮かべる。


(松陽、聞いてやがったな…)


「…そっか、けいこあったんだね。ごめんね。けいこがんばってね」


「他の連中も行くんだろ?稽古なんてしたって、誰もいねぇだろ」


「ほか?…」


「ああ、だって友達みんなでやるんだろ?」


「ちちうえとははうえとせんせいだけだよ?おともだちは銀時おにいちゃんしかいないし…」


(?!…俺だけ?…)


「そうなのか…」


「うん…。だから、銀時おにいちゃんしかさそってないよ」


「仕方ねぇから、行ってやる」


「ほんと?!」


「ああ」


悠凜は銀時に抱きついた。


「うわぁ〜い♪ありがと。うれしい」


ぎゅっと締めつけられる銀時の身体。


広がる悠凜の温もり。


(なんだ…?さっきのイライラが消えてく…)


思わず伸ばす手。


銀時は自分よりも小さな少女の頭を撫でる。


「約束な…」


銀時はフッと微笑む。


「あ…ゆ、悠凜…7月10日にお前の家に行けばいいのか?」


「うん、おいしいごはんつくってまってるね」


「お、おう」


(『美味しいご飯作って待ってる』って新婚か?!…)


「コホン、話はすみましたか?」


ビクッ?!


松陽は笑みを浮かべながら咳払いをしていた。


(松陽いたの忘れてたぁ〜)


「えへへ、おはなしすんだよ。じゃあ、かえります」


「?!…もう…帰るのか?」


思わず、ついでた言葉。


「?」


悠凜は銀時の言葉にきょとんとする。


「あ?!…いや、今来たばかりだからよ…」


「うん、銀時おにいちゃんをさそいにきただけだから、ようじはすんだよ」


悠凜は満面の笑みを銀時に向ける。


(俺を誘いに来ただけ…)


悠凜の言葉に銀時の胸がトクンと踊る。


「もう少し居たらどうだ?」


「う〜ん、おつかいのとちゅうだから、もうかえらないと…」


「そっか…、じゃあ送ってく」


チラッと松陽を見遣る銀時。


「俺、一人で送ってくる」


松陽は優しく微笑む。


「ええ、お願いします」


「じゃあ、帰ろうぜ」


銀時は悠凜の手を引く。


「?!…え?銀時おにいちゃん!」


急に手を引かれて驚く悠凜だが、ギュッとその手を握り返す。


松陽の方を振り向く悠凜。


「せんせい、さよなら〜。またぁ」


「ええ、また。さよなら悠凜ちゃん」


松陽は二人の子どもたちを笑顔で見送った。


(随分と仲良くなったもんです。碧がまた妬けるんでしょうね。でも、二人とも良い笑顔です)


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