落花流水 〜過去篇・壱 遭逢の時〜
□*第漆幕* 道場破り
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銀時は、神社の境内にある木の上にいた。
(ふわぁ〜、ねみぃ…)
木の葉の影が日差しを遮り、銀時の眠気を誘う。
(ほんと、読み書き算術とかわけわかんねぇ…。つまんねぇし、剣術だけでいいのにな)
松陽の目を盗んでさぼっていた。
ふと、空を見上げる銀時。
(悠凜…元気かな?今週は会ってねぇな。会いてぇな…)
銀時が自分の感情に気付いてからは、毎日悠凜の事を考えるようになっていた。
(…あいつも塾に通うようになんねぇかな?あ…でも、そうなったら、毎日松陽にボコボコにされるとこ見られる…それは、マズイ)
銀時は自問自答しながら頭をガシガシと掻いた。
(あ〜、もっと強くならないと。何があっても、あいつを安心させられるくらい…。あいつの笑顔を護りてぇ…―――)
銀時は悠凜の事を考えながら、眠りに落ちていった。
【1時間後】
黒紫色の髪・深緑の瞳をした少年が神社の石段を上ってきた。
柱の横に寝転がる少年。
(あいつら弱いんだよ。はぁ…世の中くだらねェ)
しばらくすると、黒く長い髪を後ろで結んでいる少年が神社の鳥居くぐる。
そこで寝転がっていた少年を見つける。
「やはりここにいたか。何度目だ?また塾で大暴れしたらしいな。国の未来を担う俊英が集う名門講武館も貴様という器をおさめるには足らんと?高杉」
呆れたように話しかけた。
高杉と呼ばれた少年は起き上がり、深緑の瞳を一瞬相手に送るが、すぐに戻す。
「俊英が集う名門?笑わせるな、桂。あそこにいんのは親の金だのコネだのを引き出す才覚しかねぇ坊どもだ。大暴れした?俺はまじめに稽古しろっつーから本気出しただけだよ。喧嘩の仕方も知らねぇ連中が、この国をどんな未来に導くか楽しみだな」
「高杉…。それでも貧しさから文字も読めない者いる。侍になりたくてもなれぬ者もいる。お前は幸せ者なのだ」
「流石は才覚だけで特別入門が許された神童はいうことが違う。お前ならあそこで立派な侍になれるさ。お家だ、お国だののために働き死んでいく…そんな立派な侍にな。悪いが俺は、そんなつまんねェもんになる気はねェよ」
「ならばお前はどんな武士になりたいと?高杉、お前はどこへ行こうというのだ」
「…さあな。そんなもん解ったら苦労しねぇさ…」
ザッ…
「高杉、ウチの弟が世話になったらしいな」
「「?!」」
高杉と桂が話していると、石段の方から男の声がした。
「下級武士の小倅の分際で身の程をわきまえろ。お前には先輩の特別授業が必要のようだ」
『弟』の仕返しに来たのか数人の男達が石段を上ってきていた。
高杉は地面に落ちていた棒切れを拾う。
「今度は少しはマシな稽古ができるんだろうな」
挑発する高杉。
「ま、待て!稽古上での遺恨を死闘ではらそうとは…、それでも武士を目指すものか」
(…?…なんだ?ギャーギャーギャーギャーうっせーな。人が気持ちよく寝てんのによ)
銀時は木の下から聞こえる声に目を覚ます。
(近くの寺子屋の連中か?)
銀時は呑気に下の気配を探っていた。
「貴様ら多勢に無勢で…!!」
「桂か。丁度いい…特待生だかしらないがろくに金も収めん貧乏人と机を並べるのも我慢の限界」
男たちの矛先が高杉と桂の両方へ向く。
「まとめてたたんじまェ!!!」
(あ〜あ。あいつら可笑しな連中に絡まれてやがらぁ〜)
「見たかよ桂。ここには侍なんて居ねェよ」
(…やかましい…)
銀時は刀を抜き、地面目掛けてブン投げる。
ビャン!
ドッ!
「!!!」
どこからか飛んできた刀が双方の間を割るように地面に突き刺さる。
「ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ、発情期かてめーら。稽古なら寺子屋でやんな。学校のサボり方も習ってねぇのかゆとりども」
高杉と桂が見上げると銀髪の少年が木の上に寝そべっていた。
「知らねぇなら教えてやろうか、寝ろ」
ドッ
木の上で立ちあがり、一人の男目掛けて飛び降りる。
一瞬で一人を倒してしまう銀時に唖然とする一同。
「侍がハンパやってんな。やる時は思い切りやるサボる時は思い切りサボる。俺が付き合ってやるよ。みんなで一緒に寝ようぜ」
「誰が寝るかァァァァ!!!」
更に煽る銀時に対し向かっていく男達。
ゴッゴッゴッゴッゴッ
だが、何者かに後ろからゲンコツをくらいのされてしまう。
「…銀時。よくぞ言いました」
(…げッ?!)
その男を見るや銀時は冷や汗をかく。
「そう侍たるものハンパはいけない。多勢で少数をいじめるなどもっての外、ですが銀時。君たちハンパ者がサボりを覚えるなんて100年早い」
コツン
「ぶべら!!」
ドフア!!
軽いゲンコツで石畳にめり込む銀時。
「喧嘩両成敗です。君たちも早く帰んなさい。小さなお侍さん」
気絶した銀時を連れ帰っていく男。
「あ…あれは、そうかあれが噂に聞いた…。近頃、白髪の子供を連れた侍が私塾を開いて貧しい子供に無料で手習いを教えていると聞いたが…」
高杉と桂は男の後ろ姿を見据える。
「あれが、松下村塾の吉田松陽」