長編松

□妖怪、百鬼夜行は致しません。
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妖怪とは、人に忌み嫌われる奴も居れば、人と共に有る奴も有る。
はるか昔、山奥の小さな村に一人の娘が居た。
山を走り周りながら育ち、体の丈夫な娘となった。
両親は居なかったが、愛想の良さと要領の良さを村人は認め、その娘に尽くした。
ある日娘が山から帰って来るなり云った。
「孕んだ」
村人が何を云い、何を訊いても答えない。
流石に気味悪くなった村人達は、強姦されたのだ、意図的では無かったなどと予想を立て、人里離れた山小屋に娘を置いた。
大好きな山に居れば、傷が癒えるとでも思ったのだろう。
その頃村は飢饉状態だったため、娘は食糧を貰えなかった。
もう来れないかもしれない、頑張れと云う村人達に礼を言い、娘は山小屋に留まった。
娘は内心ほっとしていた。確かに子を孕んだが、人間と人間の子では無いのである。
娘と交わったのは紛れもない妖怪だったのだ。
娘は強情であり、どんな子だろうと産むと決めた。
娘は妊娠した。

〜〜〜

娘は丈夫に育ったおかげか、命を落とさず、六人産んだ。
娘自身驚いたのは、六人それぞれ血をひいた妖怪の種類が違うのである。
一人目には獣の耳と九本の尾、二人目の腰には真っ黒な翼、三人目の体中には目が、四人目には獣の耳と二つに割れた尾、五人目の首は異様に長く、六人目の肌は氷の様に凍てついていた。
そんな異形な子供が生まれたのにもうろたえず、娘は彼等を真剣に育てた。
彼等の成長は異様に速く、娘は困らなかった。
ある日、三番目の百目鬼が娘に云った。
「ぼ<はチョロまっ、ょろし<ね、かぁさん。」
娘は目を丸くした。まだ彼の体は小さく、言葉を喋れる歳では無かったからだ。
また、百目鬼は喋り出した。

「ぃちバんぅぇのニィサンはぉそまっニィサン。ぼ<のひとっぅぇはカラまっニィサン。ひとっシたはぃチまっ。ごバんめはジュぅしまっ、ぃちバんシたがトドまっ。かぁサん、ぉぼぇた?」

驚いた娘は静かに首を横に振った。
そして百目鬼は云った。
                   
「シょぅがナィね、なニせろ<ニンもぃるんだもノ。」                                    

そして笑った。
娘は名前を覚えた。
(貴方が付けたの?)と訊くと、
「かぁさんがッケたんだょ?」
と不思議そうに云われた。娘は良くわからなかった。

                   〜〜〜
                   娘視点
                   
月日が経ち、彼等は益々成長した。
食糧の確保も彼等が行うようになった。
妖狐であり九尾である一番目のおそ松は、狐の友達が出来たようだ。毎日出掛けては、栗や茸を採って来る。
二人目の烏天狗のカラ松は、よろめきながら毎日空を飛んでいる。落ちないか心配だ。
三番目の百目鬼のチョロ松は、毎日体中の目を開いて兄弟のしている事を眺めている。時々、「カラ松が落ちた」と言って家を出て行く。第三の目で見えるのだろうか。
四番目の一松はいつも猫に囲まれていて、何か話しているようだ。時々魚を捕ってくる。
五番目の十四松は首を木よりも長く伸ばし、山から顔を出す事が好きらしい。毎日どこか遠くを見つめているようだ。
六番目の雪童のトド松は、いつも家に居る子であるが、冬は誰よりも早く起きて山菜を摘みに行く。
みんなとても可愛い私の子供。
妖怪は不死だと聞く。
私が死んでも、このまま楽しく暮らしてくれるだろうか。
                   〜〜〜
                 「かぁさんがしんじゃう」
とチョロ松が云った。
兄弟は凍り付いた。
百目鬼のチョロ松は今起きた事、これから起きる事を体中の目によって感じ取る。
 娘は病気になってしまったのだ。
娘は云った。
「貴方達は妖怪だから、死なん。でも私は人間。貴方達を残して逝く事を許して頂戴。」
六人兄弟は娘に抱き付いた。
「逝かないで…」
「置いて逝かないで…」
口々に兄弟はそう言い、泣く。だが、人間の命とは儚いものである。
「仲良くね、」
と云い残し、娘は翌朝死んだ。
兄弟は家の裏に深い深い穴を掘り、トド松の凍らせた母の体を埋めた。
そして彼等は墓を造った。
そして彼等は、毎日毎日母を拝み、崇めた。

これから彼等は六人で生きて行くのだ。
妖怪として、不死の者として。
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