ひまわりの君

□花火の後
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あの子がこの景色を見たら きっと喜んだに違いない。

「芸術は爆発だ!」
耳の奥でおなじみのセリフが鳴る。
何度も何度も聞いた、その言葉を思い出す。


その後に響くのは、決まって爆発音。

パーン と、鼓膜が鳴った。

あまりにもリアルなその音に、ついに幻聴が聞こえ始めたかと疑いそうになる。

違う。音は本物だ。

私はたった一人で花火を見ている。この辺りで最も背の高い木に腰掛けて。
本当は二人で見るはずだった この美しい空を、たった一人で見ている。

眼下では人々が群れを成して、空を見上げていた。赤い提灯が祭を怪しく彩っていて、まるで異世界に来たみたいだ。
小さな子供も、若い男女も家族連れも、老夫婦も、みんな浴衣に身を包んでいる。どの衣装も目を引くほど美しい。犯罪者である私が見下ろすこの世界が、珍しく幸せに満ちていた。


ドーン

どうやら下ばかりに気を取られていたらしい。一際大きな破裂音がして、大輪の花が空に咲いた。
群衆の大歓声。つられて顔を上げる。
無意識のうちに、私は人混みに彼の姿を探していたんだろうか。強い煙の匂いに、虚しさが増した。
パラパラ、火花の弾ける音。
漆黒の夜空に花は散る。
それは枝垂れ柳のように 数多の光の尾を引いて消えていく。
金色に輝くそれは、たなびく髪を彷彿させた。

「君が見に行こうって言ったんだよ、ねぇ」


デイダラ。

その名前を口にした瞬間、涙が零れた。


彼はもう この世にはいない。
花火みたいに、綺麗で、あっけなく、煙と火薬の匂いを残して………


一瞬で、その存在は消えた。



この祭りも クライマックスだろうか。出し惜しみはしない主義のようだ。次々と立派な花火が打ち上がる。
人々は空に見惚れ、眩しい閃光を浴びようとも目を逸らさない。
「芸術は爆発だ」
私の声で再生される、デイダラの口癖。
あまりにもこの情景にピッタリな言葉だから、自然と口からこぼれ落ちたんだろう。
目の前ではまだ、色とりどりの花が咲いては散りを繰り返している。
「芸術は爆発だ」
花火の音にかき消されようとも、誰にも届かなくても。もう一度呟く。

君が死んだあの大地には大きな傷跡が残った。
けれど、それもいつかは、何事もなかったかのように元に戻ってしまうんだ。

君が死んだ後の私にも、大きな傷跡が残った。
何事もなかったかのようになんて、とてもじゃないけどできなかった。これはいつ元に戻るんだ。


目の前にまた、花が咲く。

人々の歓声が遠く、遠くに聞こえる。
提灯の赤色がぼんやりと霞んでいく。



最後の花は一段と大きく、閃光が私の顔を覆った。


この爆発の後には、何が残るんだろう。

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