銀魂
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そもそも思いつきでこんなことを言い出す男ではない。
会話の内容を思い返せば、いくつもの分岐点があった気がする。
いつもと少し変わった様子を、土方は「疲れているから」と思っていたけれど…。
もしかすると、これは――
「近藤さん…アンタまさか最初からこのつもりで…」
『え!?な、なんのことぉ?』
素っ頓狂な声でうまく誤魔化そうとはしているが、動揺している様が手に取るようにわかる。
まったく何考えてんだ、この人は。
「……やらねぇよ、俺は」
『えぇ――!なんでだよ!』
「なんでって、ヤルわけねぇだろ、そんな変態じみた行為っ!」
本当なら今すぐにでも電話を切ってやりたい気分だったが、さすがにそれは可哀想な気がしてやめた。
寂しいが故の暴走だということは、土方だって理解している。だからと言って、このふざけた提案に乗るつもりはないが。
『トシのケチっ!』
「ケチじゃねぇだろっ!」
『じゃあ、ヤってくれよ〜』
「だから、嫌だっつうの」
思いの外、近藤は食い下がってくる。
ホント、どんだけムラムラしてんだよ。
土方は呆れたように小さく息を吐き、このまま会話を続けても埒が明かないと判断し、もう寝てしまおうと布団に入った。
「近藤さん。明日も早いからもう今日は――」
『……トシは俺のこと、好きじゃないんだ』
ぼそっと呟かれた近藤の言葉がチクリと胸に刺さる。
「…なんで、そうなるんだよ」
『だって、ソープに行けとか言うし!普通旦那に向かってそんなこと言うかなぁ?』
「……そ、それは…悪かったと、思ってる」
心にもないことを言ってしまったことは自分でも反省している。
もし本当に近藤がソープにでも出掛けて女を抱いてしまったら――想像だけで腸が煮え返りそうになる。
会えない時間を寂しいと感じているのは自分も一緒。
はやく帰ってきて欲しいと思いながら寝床につく毎日。
『だったら詫びのつもりでっ』
「それとこれとは別問題だろ!」
素直になれないのはいつものことだ。
今更可愛げを求められても応えることはできない。
「マジ…、勘弁してよ…」
どんな形であれ、愛しい男に求められて嬉しくないわけがない。
しばらくの沈黙。
繰り返される押し問答にようやく近藤も折れたかと思った土方だったが、
『…じゃあ、トシは聞いてて』
「え?」
『もう臨戦態勢に入っちゃってて、今更どうにもできねぇから』
「臨戦態勢って…え?ちょ、こ、近藤さん!?」
『せめて、トシの声聞きながら掻かせて…』
想像の斜め上を行く近藤の行動に慌てふためく。
「ま、待て近藤さん!」
『もう待てねぇ…。こっちはギンギンで痛てぇっつうの!』
「だったらせめて電話を切ってから」
『それじゃ意味ないだろ。……トシ…』
「――!?」
近藤の声音が変わる。
微かに聞こえる布が擦れる音。
冗談ではなく、本当にシてるんだ――電話の向こうで。
『トシ…はやく会いてぇ…、トシのことめちゃくちゃにしてやりたい』
「……っ…」
『唇を重ねて、舌を挿し込んで、絡めて――』
「こ、…近藤さん…っ」
『服脱がせて、乳首弄って、勃起させて…』
「や…、やめ…」
『竿を扱きながら、後ろも解して、ぐちょぐちょに啼かせたい―』
「もう―、それ以上言うな…っ」
連ねられる卑猥な言葉に身体が震える。
触れ合えない時間を過ごしているのは土方も同じだ。
鼓膜を擽る艶めいた囁きに身体は否応なしに反応をする。
これはマズい。
「近藤さん、頼むからもう…」
『トシ…、ぁ…っ…、…好き、だ…っ…』
「――!?」
ビクンと身体が跳ね上がる。
「近藤さんっ…!!」
恥ずかしくて、居た堪れなくて――。
もう無理だ。だって身体は近藤を求めて熱を帯び始めている。
『大丈夫、トシ…俺しか聞いてないから、な?』
そういう問題じゃない。そういう問題じゃないけれど――…。
「近藤さんの…馬鹿、ヤロー…」
最後の恨み節を呟いた土方はそっと着物の裾に手を伸ばした。
硬く瞳を閉じて、耳に全神経を集中させる。
そうしていないと、この行為に対しての激しい羞恥に襲われてしまいそうだ。
『トシ…今、どうなってる?』
「…おし、えねぇ…」
『もう硬くなってる?』
「だから、言わねぇって…っ…」
『ふふ、素直じゃねぇトシもやっぱりカワイイな』
その声を聞き、デレた近藤の顔が浮かんだ。
遠く離れているのに、隣にいるような錯覚。
でも手を伸ばしてもその温もりに触れることはできない。
この空虚感が飢えを誘う。
「あ…っ、…ァ……」
『やべぇな…トシの声、すげぇ色っぽくて堪んねぇ』
そう言う近藤の声も欲情が滲み出ている。
受話越しに彼も同じ行為をしているのだと思うと、カラダの奥がズクンと疼いた。
手の中に握り込んだ熱の先端からは先走りが溢れ、上下に擦るたびグチュグチュと卑猥な音を響かせ始めている。
気持ちはいい――けれどやっぱり満たされない。
「ぁ…こん、どうさん…っ」
『どうした?』
「足んね…、足んねぇよ…っ…」
土方は縋るように想いを吐き出す。
「こんなんじゃ、足らねぇんだよ…、アンタが…近藤さんがいなきゃ…」
今まで何度身体を重ねてきただろう。
誰も触れたことのないそこを、近藤は時間を掛けて解きほぐしていった。
人よりもデカい逸物を始めは受け入れることなんて出来ないと思っていたが、丹念に育てられた身体は自分の想いに反して快楽に従順だった。
大の男同士のセックスなんて格闘技のようなものだ。
女と行う繊細さはなく、感情と共に激しくぶつかり合う。
その獣のような荒々しさが土方は好きだった。
近藤に求められているのだと、全身で感じることができたから。
その反面、土方は一人での行為を嫌っていた。
ひとつ屋根の下、寝食を共にする関係でありながら、他の隊たちがいる手前頻繁に互いの部屋を行き来するわけにもいかない。
それに警察という少々多忙な職務でもあるから、擦れ違いの日々を送ることもある。
今回のように一週間以上顔を合わせることもできないということはなくとも、身体を重ねられない日は多々とある。
もちろん土方だって血気盛んな年頃の男だ。近藤ほどでないにしろ、溜まるものは溜まる。
そうなったとき自分で吐き出させるほか方法はない。ただ、近藤とのセックスを覚えてしまった身体は際限なく欲望に忠実になっていた。
己の身体が何を求め疼いているのかはよくわかっている。
でも土方はそれに気付かないふりをして事務的に自身を慰めていた。
一度でもそれを想い求めてしまえば、我慢がきかなくなる。
だから、今回だって必要以上に拒んでいたというのに―――
『ん…俺も…。俺もトシのナカに挿れたくてたまんねぇ』
「ンっ…ぁ、あ……」
『でも今はそれができねーから…。変わりに、トシの指で慰めて?俺がいつもするように…』
「なっ!む、無理…っ…」
『トシならできるさ。な、ほら…触ってみろよ、いつも俺と繋がっている場所を…』
熱を帯びた声に誘導されるまま、土方は先走りに濡れた手を秘部へと伸ばした。
入り口に触れただけでそこはヒクつき、挿入されることを待ち侘びているようだった。
『ゆっくりナカに入れて…まずは入り口付近で出し入れしてみよっか…』
「あ…っ、んぁ……!」
『解れてきたら根元まで押し込んで…ナカを掻き回してみ?』
「んんぅ…ッ!や、ぁ……ッ」
『…んっ…、イイ声』
近藤の甘い言葉に溢れ出る嬌声を押さえることができない。
指示を受けなくても勝手に動く指は、前立腺を探り押し上げる。
「ひっ、あ…ぁ……ッ」
『は…ぁ…やべぇよ、トシ。すげぇ挿れたい…。奥まで深く…』
「あっ!こん、どぉさん…ッ」
『俺のぶっといコレでトシのなかグチャグチャにして啼かせたい。そんでいっぱいナカに注ぎたい』
「いっ…あ、あ…ダ、メ…ッ」
『ダメじゃない。欲しいだろ…?なぁ…トシ…』
壮絶な色気を纏った声に理性を根こそぎ持っていかれる。
「あぁあッ、ほし、近藤さんが欲しい――…!!」
ナカが激しく脈打つのがわかった。
でもまだ自分のチカラだけじゃ後ろでイクことができない。
だから左手で前を擦りながら、指のピストンを繰り返した。
『トシかわいい。大好きだ、トシ…っ…』
「あ、あ、も、ダメ、だ…限界――っ」
『ん…俺も。トシ、出る―――…ッ』
「ぁあッ!んくぅ―――…ッ!!」
ビクン!と身体が弾けた次の瞬間、手のひらに生暖かな感触。
「は…っ、ぁ……は……ん…」
乱れる呼吸を必死に整えようと喉を鳴らす。
やっていることは一人の時と変わらないのに妙な疲労感が全身を覆った。
『トシ…、ありがとな』
優しく甘味な声が耳に届く。
「…もう、寝るからなっ」
気怠さが抜け、我に返った土方は恥ずかしさから電話を切ろうとする。その間際、
『トシ、もうちょっとだけ待っててくれな。すぐにお前のところへ帰るから―――』
と、顔に似合わぬ甘い言葉を近藤が吐くもんだから土方の顔が羞恥に染まった。
何年経っても、この男のすべてに心が鷲掴みされている。
「…あぁ…、待ってる…」
無意識に素直な想いが口をつく。
すると、電話の向こうで近藤が優しく微笑んだ気がした。
〜おもひ想われ〜【完】