短編

□会議録〜部屋割りの決定方法について〜
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「……え? 今、なんて?」
 主人公によってアジトの裏に呼び出されたクライヴ、ハルカ、ソフィの三人。主人公の唐突な発言に真っ先に反応したのはクライヴだ。
 再度同じ内容をクライヴに告げる主人公。現在立たされている自分たちの苦境もかいつまんで話した。
「でしょうね! あんだけ見境なく10連回してればそうなるわよ」
 ハルカがやや食い気味にかみつく。
「そ、それで私たちはどうすれば?」
 主人公は三人を呼び出した真の目的を話し始めた……。

「いっつも俺ら最古参組が損な役回りだよな」
「まあそんなことを言わずにクライヴ様、皆様を会議室までお呼びしましょう」
「今夜は荒れそうね」





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 クライヴとハルカがホワイトボードを背に立ち、集いし者たちと対峙する。書記はソフィが任された。最後にザックが部屋に飛び込んできて会議室のドアが閉まる。
「ふー、ぎりぎりセーフ!」
「ぎりぎりアウトだザック」
「わりぃわりぃ。って俺の席ねえじゃん!」
「あったりめーだろ。早い者勝ちなんだから遅れてくる方が悪いんだろ。おめーの席ねえから」
「くっ、伝説野郎、どこぞのいじめっ子みたいなこと言いやがって」
 腐れ縁の応酬を耳にしながらクライヴは思案する。
(会議室ですら今の人数ですし詰め状態だからなあ、手抜きの宿屋だともっと酷いことに)
「んで? これは何のミーティングなわけ。難攻不落なクエストでも実装された?」
(ここはひとまず単刀直入に今日の議題を話すとしよう)
 クライヴは覚悟を決めた。
「今日集まってもらったのは他でもない、タウンの宿屋における数的ミスマッチについてだ」
「数的ミスマッチ? もっと分かりやすく頼む」
「宿屋の部屋数が俺たちの人数よりも下回ってしまった。つまり、誰かがあぶれることになる」
 水を打ったようになる会議室。全員の頭に即座に浮かんだ二文字。

( 野 宿 !!)





【会議録】

議長:クライヴ
副議長:ハルカ
書記:ソフィ

ヴィルフリート
ロッカ
リーゼロッテ
リリエル
レイヴン
ザック
ピレスタ
フローリア
リアム
キララ
カスミ
キャロ
タコパス
ソウマ
ポン
レンファ
ユイ
ツユハ    計21名(入手昇順)



以下は会議の一部始終である。





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「それ、マジかよ」
「残念ながら事実だ。ハルカ、資料を」
「分かったわ」
 ハルカが一歩前に出る。
「みんなにも配ってあるこの資料、もう目は通したかしら。まずはおさらいとして、宿屋とはデッキコストが上昇する効果を持つ建物であり、内部の部屋数はレベルによって決まるわ」
「部屋はシングルの構造。今はレベル15だから、部屋数も15だ」
「ここで問題なのが、部屋を必要としている私たちフォースターの人数。資料にもあるように、総勢21名。単純計算で6人がオーバーしてしまっているの」
「6人」
 ようやく事の深刻さが身に沁みてきたのか、キャロがゲンドウポーズで復唱する。表情はすでにチェックされる寸前そのものである。
 6人。21人中の6に該当してしまう確率は決して低くはないように思える。少なくともガチャの星4率よりは遥かに高いはずだ。
 ヴィルフリート、レイヴンは腕組みを維持したまま黙している。彼らに関してはもはや何を考えているのかすら読み取れない。
「ま、まあそんな深刻に捉えなくていい。この会議の目的は誰を外に追い出すか、ではなく、部屋割りの決め方をどうするか、に重点を置くつもりだ」
「それに飛行島はとても快適な環境ですので、お外で一夜を過ごしても体に差し障りは無いと思います」
「だよねー。この島はむしろ暑くて溶けちゃいそうだよ。少なくとも凍え死ぬことは無いから安心だね」
 氷の国出身の王女様と雪女が何言っても説得力ねえよ、と内心ツッコミを入れたのはリアムだ。彼やザックは少年時代に野宿を経験しているため、その過酷さを身をもって知っていた。
「そういうわけだ。部屋に泊まれなくなった者には申し訳ないが、ハンモックや簡易の小屋など最低限の場所は確保しよう」
「会議の進め方はブレストで行きたいと思います。みんなブレストって知ってる?」
「はい! 私“メルスト”なら知ってます!」
「他のゲームの話題は控えてちょうだいキララ。ブレストっていうのはブレインストーミングの略で、簡単に言えばどんな意見でも参考になるかもしれないから遠慮なく言ってね、ってことよ」
 そこで早速ピレスタの手が挙がる。
「質問! 主人公御一行の分のお部屋は考えなくていいの?」
「ああ、彼らは今まで通りアジトにある専用の部屋で寝泊りするらしい」
「バロン様やヘレナ様もアジトにお部屋があるそうですよ」
「じゃあ後は本当に俺らだけってことか」
「他に質問は……ではここから会議を始めることとする。申し遅れたが俺が議長のクライヴ・ローウェルだ」
「副議長のハルカです」
「書記を務めさせていただきます、ソフィです」
「時間はとりあえず二時間を目処に」
 戦いの幕が切って落とされた。





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「意見のある者はどんどん手を挙げていいぞ」
「じゃあ……はい」
「キャロ、どうぞ」
「角が立つのを覚悟して言うけど、いいわよね? こういうのは単純に先輩後輩の順番で決めちゃえばいいんだわ」
「どういうこと?」
「ここにいるみんな、この島に来た順番があるでしょ? 一番最初がクライヴさん」
「ああ、そうだが」
「クライヴさんを一番の先輩にして、そこからハルカ、ソフィさん、ヴィルフリートさんって感じにこの島に来た順に部屋を決めていけばいいのよ」
「なるほどです」
 ソフィがホワイトボードに『・入手順(昇順)』と記す。この時ザックは(キャロって意外と賢いな)と思った。仮にこの方法で決めていったとする。そうするとキャロはぎりぎり宿泊者側に含まれることになるのだ。しかもこの順序だと、斧職では大先輩であるヴィルフリートのメンツも保つことができる。
「これなら公平でいいんじゃない?」
「でももっと公平な決め方がありますよ」
 ポンが挙手する。
「公平な決め方といえば〜やっぱりジャンケンじゃないですか!」
「けろッ! 奇遇だね、私も今それ言おうと思ってたんだ」
(ポンちゃんはジャンケン強そうだな。それに引き換え……)
「もしジャンケンでトーナメントやったら、リアムはビリ確定な気がする」
「あ? ザックお前喧嘩売ってんのか」
「いやいや、俺はお前さんの心配してやってんだって。試しに一回やってみっか?」
「いいぜ」

じゃーんけーん ぽん。

「ほらな」
「くそっ」
 勝利のブイサインを出したリアムは、ザックのグーにより敗北を喫した。
「これが本番じゃなくて良かったな。いいのか? ジャンケン案を否定しなくて」
「うっせーよ。でも確かに俺はジャンケンには反対だぜ。だってよ、実際のとこジャンケンって全然公平じゃねえし」
「どういうこと? 後出しとか?」
「いや、八百長だ。この中に八百長をしそうな輩が何人かいる」
「……ちょっと! なんでそこで私の方を見るのよ。私が私利私欲のためにそんな姑息な手段を使うとでも?」
 リアムはカスミを見据えて言い放つ。
「いや、あんたの場合は隣りにいる庭師さんのために一肌脱ぎそうだなって思っただけさ」
「か、カスミ……」
「そんなことするわけないじゃない」
 カスミは八百長をする気満々だった。
「それに特定の誰かを勝たせるための不正なら、私なんかよりも疑うべき人がいるじゃない。そうよね、議長の騎士さん?」
「お、俺か?」
 予期せぬ飛び火にクライヴがキョドり始めた。まさか自身の嗜好が周知の事実だったということに戸惑いを隠せなかったのだ。
「確かに姫好きのクライヴさんのことなら、考えられるわね。むしろ呼吸するくらいさりげなく不正をしそうだわ」
「れ、レンファまで……」
 ソフィは背後で不思議そうな顔をしている。まさか自分が今の話題の渦中にいるとは露ほども気づいていない。
「くそっ、俺を誰だと思っている。この剣にかけて、いや、この企画書にかけて、俺は不正は犯さない」
 クライヴは八百長をする気満々だった。
「入手順と似てますけど、年齢順に決めていくというのはダメですか?」
 ユイがおずおずと自らの意見を述べる。
「年齢順かぁ」
「他の奴の歳とか全然知らねえけどな。そんなファンブックにしか書いてなさそうなこと言われてもなんのこっちゃって感じだぜ」
「ちなみに年齢順だと帝王殿やリリエル殿のような人外種が圧倒的有利になるな」
「あと言いだしっぺのユイがダントツで最下位になるけど……アンドロイドだし」
「それは困ります! やっぱり今の無しで」
 ただでさえ裸で恥ずかしいのに、咄嗟の時に逃げ込む部屋もないというのは拷問に近いです。ユイは恥ずかしそうに付け足した。そんな彼女の訴えにハルカが頷く。
「でも、確かにそうよね。確実に部屋が必要な人っているわよね。ユイはもちろんのこと、病弱なリリエルを放り出す訳にもいかないし、お嬢様のリーゼちゃんなんか、親御さんから文句言われそうだわ」
「でしたら、お部屋をあてがう方を優先的に決めていく、というのはいかがでしょう」
「だな、もうこのフローリアの案が一番シンプルかもな」
「じゃあみんな、部屋を必要とする理由を喋っていってくれるかしら」
 ハルカが言い終えるが早いか、あちこちで一斉に手が挙がった!

「漫才の練習に忙しい」
 ヴィルフリート。

「お部屋が無いと溶けちゃうかも」
 ロッカ。割とシャレにならない。

「我輩たちを野ざらしにするなど天罰ものだぞ痴れ者が!」
 クマロン。

「……」
 リーゼロッテ。レイヴン。

「レストランのツケ全部精算してくれんのなら野宿でもいいぜ!」
 ザック。

「玉乗りの練習は室内でしたいんだよね〜」
 ピレスタ。

「草花たちと時間を共有できるのであれば、私も外で構いません」
 フローリア。

「俺様が外で寝るわきゃねーだろ」
 リアム。

「全員が外で寝ればいいんですよ! 夏合宿です!」
 キララ。一人だけ感性がずれている。

「ダメよフローリア! あなたは中で寝なさい」
 カスミ。もはや隠すことすら諦めたらしい。

「あたしにチェスで勝てたら考えてやってもいいわ!」
 キャロ。彼女を野宿へ追いやることは猫にもできる。

「ヒカラビルノハ、イヤデチュー!」
 タコパス。

「勉強で忙しくてな」
 ソウマ。この中で最も理由らしい理由だった。

「それより大工たぬきさんたちのお部屋も作った方が良くないですかー?」
 ポン。新たな火種を生みそうな発言である。

「ウチも踊りの練習でくたくたなんだよね。野宿はさすがにちょっと」
 レンファ。

「先程も言ったように、外はダメなんです。もしかしたら爆発してしまうかも」
 ユイ。脅迫だろうか。

「外でもいいよ。その代わり毎日土砂降りにしてもいいよね?」
 ツユハ。脅迫だろうか



「全員ストップ! 野宿が嫌だからって急にヒートアップするな。あまりの迫力にリリエルが気絶している」
 どこまでも病弱な吸血鬼である。
「しかも発言がみんな支離滅裂よ!」
「そうですね。理由になってない方が数名いたように思います」
「勉強が忙しいなんて言ってる人いたけど、それなら私だって忙しいんだからね!」
「ハルカまで暴走してどうする!」
「正直な話、女子はみんな部屋が必要だと思うの。あんまり言いたくはなかったけど」
「キャロ! お前ついにそれを言ってしまったな! 男卑女尊の白猫でそれを言うか!」
「ご、ごめんザック君。でも慣れたでしょ? 一年もやってれば」
「まるで他人事みたいに言いやがって! くっそ、フォースター連勝中の斧職様はやっぱ言うことが違うな!」
「ザックもキャロも落ち着け! こんなとこで言い争いして何になる。ここは他薦だ他薦」
「他薦?」
「自分が部屋を使いたい理由じゃなく、部屋を利用させるべき人を推薦するんだ。これなら少なくとも自薦よりは公平だろう」
「ほんとかねぇ」
 ザックの座る姿勢がより一層悪くなる。
「はいっ! 私はフローリアを推すわ」
「はいッ! 俺はソフィ殿を推そう」
「それ見たことか!」
 ソウマが唱えた他薦案では一部の者が本領を発揮し始める。公式カップリング二組がその際たる例だった。
「議長自ら公平を崩していくスタイルか……面白い」
 ヴィルフリートは、実は部屋割りや野宿などどうでもよかった。むしろこの中で最も高位な自分が野宿をするのも「おいしい」展開だと考え始める始末である。
(普段は真面目を極めるカスミとクライヴが、状況次第ではボケに転じている。それは普通のコメディアンの普通のギャグよりも何十倍もの破壊力を生み出し……)
 今の帝王は、この会議をいかに混沌へ導くかを思案している最中であった。
 そしてレイヴンはそろそろ会議の主旨を忘れ始める頃であった。キララやリーゼロッテと同じくらい上の空である。だからだろうか、会議室に何者かが近づく気配を誰よりも早く察知していた。
「―――誰か来るぞ」
「えっ」
 全員の視線がレイヴンに集中する。謎の来訪者の存在よりも、レイヴンがこの会議で初めて口を開いたことに皆驚いていた。
「誰かって、誰?」
「さあな」
 今度はレイヴンから扉に視線が移る。ザックが遅れて入ってきてから一度も開閉がされていない扉。確かにその向こうから何者かの足音が聞こえてくる。
「主人公が帰ってきたんじゃ」
「いや、この足音は初めて聞く。しかもかなりの……猛者だ」
 扉が開かれた。数秒後、目に映った人物に誰もが驚愕することとなる。



 炎を連想させる真っ赤な甲冑、そしてこれまた炎のようにそそり立たせた赤髪。
「大事な会議中で申し訳ないが―――」
「え」
「嘘だろ……」
「あんたは―――」
 背中を覆う紺色のマントを翻し、言い放つ!
「竜騎士団のゲオルグ・ランディルだ。今日からこの島で厄介になることになった。よろしく頼む」
「ゲオルグぅぅぅぅぅーーーーー!?」





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