有象無象の本棚

□特別な朝
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はじめて三蔵と同室となった。
恋人同士という関係になってから、三蔵と一緒になるのは避けていた。
まるで知らない自分を見せつけられるようで、落ち着かなかった。
そんな時は、八戒と一緒になって酒を飲んで、同居していた時の雰囲気を味わったり、悟空と同室となってお子さまの相手をすることで気をまぎらわせていた。

ある意味、三蔵から逃げていたのである。
あいつに全てを明け渡すことに不安を感じていたからだ。
そんな水面下での駆け引きも終わりを告げる。
今日もそんな風にして逃げていた俺を八戒も「自分に正直になりなさい。」と諭したし、三蔵も「いい加減、お前の感情から、俺から逃げるな」と迫ってきたのである。

俺は覚悟を決めて、三蔵の待つ部屋へと足を運んだ。
三蔵は中で新聞を読んでいた。
眼鏡の奥から俺を見つめる。その視線は俺を絡めとるように、引き寄せるような強いものだった。
その視線に吸い寄せられるように三蔵に近づいた。

「何か飲むか。」
「ん、じゃあビール。」
「わかった。」

三蔵が部屋に備え付けの冷蔵庫に向かう。その一挙手一投足が気にかかる。緊張しているのだ。
「おい、ご所望の品だ。」
「ん、ありがとう。」
三蔵からビールを受け取り、一口飲む。喉の乾きは潤してくれたが、緊張はほぐしてくれなかった。

ただひたすら黙って飲む。どれくらいの時間がたったのだろう。
知らぬ間にビールは空になっていた。
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