同じ世界を。
□蛍の光
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今日も、沼に来た。
「昔、この森に住む山神の一人が人間の女と恋をして、夜中にコッソリ逢瀬を重ねた。
その時深い闇の中をこの沼の蛍たちが夜道を照らしてやったのだ。
山神はその礼に命短い蛍たちを妖の姿に変えてやった。
彼らは喜んでその多くが沼を旅立ってしまった。
ここの蛍はその時この地に残った蛍の子孫だと言われている。
ただの言い伝えだがな…」
そう、ニャンコ先生が話してくれた。
『じゃあキヨは…、その言い伝えに出てくる蛍なんだね』
.
沼につくと、また昨日の男性が沼を見ていた。
「『ーーー!!』」
私たちが目にしたもの。
それは、沼を泳ぐ巨大な妖怪……。
…………やっぱり、気づいていないみたい。
隣にたっていた夏目くんは、いつの間にかその男性の方へ行っていた。
私たちはそれを少しだけ離れた位置から見守る。
「…この沼に何かいますか?」
「さあ?蛍の他にはフナくらいかな?」
「……っ」
ーーーかつて妖が見えていたという彼は、今では本当に何も見えなくなっていた。
彼と話したくてこの沼に来たけれど、既に何も見えない彼とこれ以上会話するのを躊躇している夏目くん。
「見える人間が会いに行って、今更昔話を蒸し返されても迷惑なだけだろう」
と、ニャンコ先生も夏目くんに同意のようで。
結局、このまま何も話さずに家に帰ることにした。