JACK (Long)


□JACK〜神経衰弱
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たくさんの中から選ばれる選りすぐりの人間。
そして決められたコンセプトのために更に選りすぐった人間の組み合わせをつくり世の中へ披露する。

まるで、トランプのポーカーみたいだ。
どんなカードを選び、どんな組合わせをするか。
強く魅力的なカードを選んで組合わせるほどより魅力的に世間には写る。

僕たちは選ばれたトランプのカードの1枚だ。
…でもまだめくられてはいないから自分がどんな数字でスートを持っているのかわからない。
出来れば自分がKINGやACEのように強く魅力的なカードだと信じて。
組合わせに選ばれるよう日々練習を重ねていく。


……………………………



【神経衰弱 ターン0】


「あぁっ!それ僕狙ってたのに。やられたー!順番が僕ならそこから僕が全部とれたのに。」

大袈裟に頭を抱えてリアクションをとるドンヒョク。いつもいい反応をする。

「嘘つけ、お前気づいてなかっただろ。」

すかさず突っ込むのは面倒見がいいドヨン兄。

「わー!兄、流石です〜。」

なんでも肯定的に誉めてくれるのは可愛い弟分のマーク。

それぞれの反応をする皆に僕はガッツポーズを軽くとってニッコリ笑って見せる。

「いや、ドヨン兄。ドンヒョクは本当に気づいてたと思うよ。でも僕の番だったからね。ラッキーだったよ。」

「そうやって余裕ぶってさっきからやたらととっていくんだよなジェヒョン。
お前目が6個ついてるのか?
ただの神経衰弱マニアか?
抜け目のないやつだな。」

ドヨン兄は僕にもツッコミを入れる。
流石、ドヨン兄。皆のことをよく見ている。
そう。抜け目じゃない。
僕は自分の番を待つ間、皆のことを見ながら情報収集をしていた。
今のカードは組み合わせを見つけたドンヒョクの目が確認するように何度かカードを目で追っていたからそれをめくってみたんだ。
でも、手の内は明かさない。
そんなことしたら皆で探りあいになってしまう。
これは僕なりの作戦だ。

その時、ドアが空いて華奢なシルエットの練習生が入ってきた。

「あ、テヨン兄。今から練習?」

ドヨン兄が答えながら練習室の床に散らばったトランプを素早く隠すように集める。

「あぁーー!覚えたカードが‼」

ヘチャンが嘆く。
マークはそんなヘチャンを苦笑いで見たあとドヨン兄の片付けを手伝い始める。

「うん。少し早めにきた。
練習したいから。」

テヨン兄はニコリともせずに返答してストレッチを始める。
愛想がないように見えるが目力は強くオーラがある。
テヨン兄は誰もが認める確実に次世代のACEだ。
しかも、スートは一番強いスペードのイメージ。

「あ!僕も今日ラップの課題があったから早めに準備しておきたいので失礼します。」

すかさず真面目なマークは皆に挨拶したあと自分が次に受けるレッスン室へ向かった。
マークは真面目で暖かいハートの僧侶のような印象がある。

ドンヒョクは遊びが中断したことを残念そうにしながらもテヨン兄に一目置いているのでごねはしない。

「あー、楽しかった。テヨン兄も今度僕と遊んでくださいね。」

そして愛嬌を振り撒くことも忘れないちゃっかりはしてるが可愛い弟気質だ。
ドンヒョクはユニークなようで常に立ち回りを自分で把握している。
まるで商人をイメージするダイヤのスートだ。

「流石テヨン兄。そしたら僕も行こうかな。歌の練習なんです。
行こう、ドンヒョク。」


少しの息抜きでしたトランプを終わらせ僕も同じようにストレッチを始める。
次のダンスレッスンの準備を始める。
ドヨン兄とドンヒョクがダンスレッスン室から出ていこうとするとレッスン室にまたダンスレッスンをする練習生が入ってくる。

「おー。こんなところいるの珍しいじゃん。ドヨンもダンスレッスン?」

テヨン兄とは真逆にニコニコしたテン兄が明るく入ってくる。
小柄だがダンスは間違いなく今の練習生の中で1、2を争うだろう。

「違う!嫌みか。このダンスレッスンクラスについていけるわけないだろ?」

ドヨン兄は真面目で世話焼きだが陽気なテン兄からするといじりたくなる面白い存在らしい。
チングということもあるだろうが。

「ほら、テン。ドヨンで遊んでないでお前もストレッチをしろ。
ドヨンもストレッチを手伝ってやろうか?」

スタイルのいいジャニ兄がテン兄を軽くいさめつつもドヨンに絡む。
ジャニ兄は練習生が長くユーモアも混ぜながら皆に頼られる存在だ。

「…だから…僕がしたってついていけるわけないでしょ?」

流せばいいのにドヨン兄はわざわざ悔しがる。
だからからかわれるんだよ兄。
ドヨン兄が拗ねた返事をしながら足早に退散しようとする。
ダンスレッスン室のドアを顔はこちらに向けたまま手だけで開けようとすると丁度入ってくる練習生とぶつかる。
ドヨン兄からうぎゃっ!と変な声が出る。

「わ。ごめん。怪我はない?痛いところはない?あれ、ドヨン?ダンスレッスンか?」

ぶつかって来たのはドヨン兄の方なのに丁寧に相手を気遣うのはハンソル兄だ。

「あ、すいません。…だから〜!僕がこのクラスのダンスレッスンについていけるわけないでしょ!?
違います。もう、皆して何回言わせるんですか!やめてよー!」

謝るのもそこそこにドヨン兄は手足をバタつかせ悔しがる。
駄々っ子みたいだ。
テン兄とジャニ兄はそれを見て笑いだす。二人とも常に明るい。

ハンソル兄は状況が掴めないらしくポカンとしている。
身体は大きいが、ハンソル兄は穏やかな兄だ。
僕はこの穏やかな兄が好きだ。安心できる。

その時、ハンソル兄の後ろで一回り小さなシルエットが動いた。

「あの。ハ、ハンソル兄?」

後ろから遠慮がちに声をだしてハンソル兄の背中から顔だけ覗かせて不安そうにハンソル兄を見上げる練習生がもう一人。
それほど小さい体格ではないのに小動物のようにも見える。
それが――――――――――


「あ、ごめん。ユタ。ドヨンにぶつかっちゃったんだ。」

ユタ兄。
日本から初めてたった一人合格した練習生。
韓国語はまだまだ勉強中のようでカタコトなのでハンソル兄が何かと面倒を見ている。
そのせいでか、ユタ兄の韓国語はハンソル兄の出身地の釜山訛りが出てきている。
口数は今のところさほど多くはないので正直、どんな兄かはわからない。
ユタ兄の目は大きく顔立ちはどちらかというと幼い。

ユタ兄を見つけたテン兄がすかさずユタ兄に駆け寄る。

「お。ユタ兄ー!今日から一緒のクラスだね!よろしくね!僕、テンです。」

同じ外国人で親しみがあるのか嬉しそうに駆け寄り握手をしながらハンソル兄の後ろで戸惑っていたユタ兄を引っ張り出す。
ジャニ兄も軽く挨拶をしながらユタ兄と握手をする。
テヨン兄は気になるのかチラチラユタ兄を横目で見ている。
確か、テヨン兄とユタ兄はチングの筈だ。

「ヨ、ヨロシクお願いシマス?」

ゆっくりユタ兄が皆に挨拶をする。
僕もユタ兄に挨拶に行こうとすると後ろから肩を軽く掴まれる。そして、

「ジェヒョン、後でユタ兄の様子教えて。」

ドヨン兄に小声で素早く耳打ちされるとドンヒョクを連れてレッスン室からドヨン兄は出ていった。
やれやれ。警戒心が強いな、ドヨン兄は。
気になるなら自分でユタ兄に近づけばいいのに。
内心苦笑いしたが表情には出さずにユタ兄に近づく。

「こんにちは。ユタ兄。僕、ジェヒョンです。次のダンスチームでは僕がマンネです。よろしくお願いしますね。」

ニッコリ笑って握手を求める。
マンネと言う言葉にユタ兄が驚いた顔をして軽く体が後に跳ねる。驚いて大きめの目が更に大きく見開かれる。本当に小動物みたいだ。

「!?」

「ユタ兄?」

握手で出した手が宙に浮いたままなので呼びかける。

『マンネって末っ子!?…この中って………』

マンネ意外はわからない日本語だが何か驚いている。一テンポ遅れて表情を引き締めたユタ兄が僕と握手をする。

「ヨ、ヨロシクお願いシマス。」

その声と被るようにテン兄がまた笑い出す。

「ひょっとして、ジェヒョンがマンネって聞いて驚いているんじゃない!?自分より年下って知ってさ。」

テン兄か笑い始める。

「おい、テン。いくらなんでもそれでこんなに驚くか?」

ジャニ兄がそう言って僕とユタ兄を見比べる。
そして、一瞬間が空いたあと遅れて吹き出し始める。
そのままテン兄とジャニ兄が二人で笑い転げ始めた。


僕、高校生なのに…。確かに目の前にいるユタ兄は可愛らしい容姿をしているけど。
レッスン室の鏡に映る自分とユタ兄を見比べる。
ユタ兄の方が可愛らしいのを確認してしまい軽く落ち込む。
…そりゃ僕、ちょっと落ち着いてみられるけど…。

ユタ兄が笑い転げる二人と少し落胆する僕を見て状況を理解したようで慌てて僕の両腕を掴む。

「チェ、チェーソンハミダ!」

まだ少し拙いカタコトの韓国語で一生懸命謝ってくる。
テン兄とジャニ兄はまだ笑っている。その時、ハンソル兄が僕の肩をポンと叩きながら

「ジェヒョン、仕方ない。ユタは愛らしい顔をしているからな。決してお前が老けているせいじゃ…あ。」

一瞬、間が空いてテン兄とジャニ兄がお腹を抱えいよいよ床を叩きながら笑い出す。

「ぶーっ!!ハンソル兄。それ言っちゃダメでしょ!ひー。苦し、苦しい。」

テン兄。
それ老け顔って言ってるようなものです。

「わぁー。ごめんな。ジェヒョン。」

ハンソル兄。
…謝ったら余計に辛いです。

「ハンソル兄。何時もながら素晴らしいよ。全く!」

ジャニ兄。
それ、フォローじゃないですよね…。
今僕はマンネだから仕方ないけど、普段は絶対に皆に笑われるようなことない。割りと卒がないはずだ。

原因のユタ兄をチラッと見るとユタ兄は大きな眼をキョロキョロと動かして皆の様子を伺っている。
やっぱり小動物みたいだ。

「…ぷっ。」

その時、レッスン室の端から吹き出す声が聞こえる。
その方向を見るとレッスンになるとストイックになりすぎるテヨン兄までやり取りを見て控え目に笑って肩が震えている。

「テヨン兄まで。はぁ。」

全員笑ってるのを見てため息をつくと今度は正面にいたユタ兄がそれまでオロオロしていたのにいつのまにか笑顔になっている。
ユタ兄が元でみんな笑いだしてるんですよ?
しかし、そんな寂しい気持ちも練習生の賑やかさにかきけされる。

「わーお!ユタ兄って笑うと凄い雰囲気変わるね‼」

すぐにやっぱり思ったことを口にするのはテン兄。
…確かに。何て言うか。

「癒し系だな。」

「ヒーリングスマイル!」

「可愛い。」

僕も思ったことをレッスン室にいたメンバー皆が口々に言う。
そう。本当に笑顔が天使みたいだ。


「ありがとう。…ジェヒョン。」

何にありがとうなのかは微妙だが、ユタ兄が控え目に言ってまた微笑む。

表情がレッスン室に入ってきたときよりリラックスしている。
本当に本当に綺麗な笑顔だ。
ユタ兄の笑顔は笑うと大きい目が三日月になり、目尻が下がる。
口角も綺麗に上がって歯並びのよい歯が見える。
確かにヒーリングだ。アイドルそのものだ。
思わず笑顔にみいっていると

「ユタはジェヒョンのお陰で緊張とけたみたいだな。」

とハンソル兄が僕の頭をなでる。
なんか笑われていることがどうでもよくなってくる。
ハンソル兄のもう片方の手はユタ兄の背中をさすっている。
ユタ兄が安心したようにハンソル兄を見上げる。
ハンソル兄を凄く信頼しているようだ。
ハンソル兄とユタ兄の関係性がなんだか羨ましい。
この時はどちらに対して思ったのかはわからなかったけど。
ただ、この兄の笑顔をまたみたいと思った。


恐らく、自分だけじゃなくレッスン室にいた全員がユタ兄の笑顔に引き付けられたんじゃないだろうか。
ユタ兄が笑うと場の雰囲気が和むのだ。



まだ何が描かれているかわからないトランプ達。
でも、僕の予感ではユタ兄は数字ではない絵柄のカードの資質があると感じた。
神経衰弱でカードがめくられてからわかるようにこれから練習生みんなの資質が…カードがわかる。

僕も負けたくない。きっと絵柄のカードのような強いカードになる。
そうしないとポーカーの手札に残れないのだから。
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