JACK (Long)


□JACK〜SPEED
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JACK SPEED〜モーニングコール 1



「…兄。ジェヒョン兄〜?
そろそろ起きないとですよね?兄〜?」

同室のドンヒョクに珍しく起こされて気分が浮上してくる。
意識はあるけど体を揺すられても起きられない。

あー…。
ちょっと昨日の日本でのイベントライブではしゃぎすぎたかな。
他のグループもいたし僕たちのグループは数曲の披露だったけど。
でも夢が少しずつ実現してきている手ごたえを感じた。
はしゃがずにはいられない。
皆と歌って踊って。
ファン達と会場が一体になる。
異国だけど。こんな幸せはない。
メンバー達も本当に楽しそうだった。
勿論僕も。本当に最高の気分だった。

だけど。反動なのか体が言うことを効かない。

「兄〜?大丈夫ですか?
うーん。もしかして調子悪いんですか。
あ、待っててくださいね!
秘密兵器を持ってきますから。」

中々起きようとしない僕にドンヒョクが変なことを言って部屋を出ていく。


…秘密兵器?

何を言ってるんだろうドンヒョクは。
イタズラ好きだしな。
またなんか思いついたんだろう。

本当に起きないと。

でもドンヒョクの秘密兵器…ちょっと面白そうだ。
なんだろう…フライパンとかw?
まさか。
いや、ドンヒョクならやりかねないなw

僕の大分意識は浮上してきたけど、わざとドンヒョクの秘密兵器とやらを待ってみることにした。

「はぁ?何だ。どうした。」

ん?誰か連れてきた?
ドアの外で声がする。
この声…。

「ジェヒョン兄〜。連れてきましたよ。
秘密兵器♪」

二人分の足音が僕のベッドに近づいてくる。
僕は布団を被ったままなので誰かは確認してないけど。
あの声、まさか。

「じゃあこれからとっておきの目覚まし時計始めますね。

まず僕から。コホン。

起きろーーーーーーーーーー!!!!!」


ドンヒョクの特徴のある声が部屋中に響き渡る。
煩いwww
これは寝起きにいきなりされたら不機嫌になるやつだ。
僕は布団をさらに被りこんだ。

「からの〜?」

ドンヒョクまだ何かするのかな。
起きちゃおうかな。

少し悩んでいるとベッドが軋んで布団を被ったままの僕の体を挟み込むように重みが加わった。
僕の上にまたがるというか乗っかっている重みを感じた。
おい。ドンヒョク。あの大絶叫を耳元でする気か?
冗談じゃない。
勘弁してほしいので起きようとしたが。

うっ。
布団ごと抑えられていて簡単にはどうにもできなかった。
力を入れて跳ね起きるか?
でもドンヒョクがベッドから転がり落ちてしまうかもしれない。
少し考えて僕は直接言うことにした。

「ドンヒョク、タイm…」

「起きろ♡朝だぞ。」

僕と重なるように話しかけてきた声。
少し艶のある男らしい中低音の声。

!!!

部屋に戻ってくるドンヒョク以外の気配があったことを今の一瞬まで忘れていた。

この声…重みは。
絶対ユタ兄だ!!

秘密兵器。間違いない。
僕にとっての秘密兵器はユタ兄だ。

「んー」

ユタ兄を確認したくて布団の中でもがく。
だけど上に乗っている人物がしっかりと布団を抑え込むように乗っているので出られないし、布団を剥げない。

見たい!
きっと今僕にとっては物凄く美味しいことになっている!

「ドンヒョク起きないぞジェヒョン。
寝ぼけてる。
あれ持ってこいw」

ち、違うんです。
僕の体を挟むように兄が上に乗ってるから僕が布団から脱出できないだけなんです!

「え。…ああ。OKですwww
待っててください!」

今度はドンヒョクが笑いながら答えて部屋を出ていったようだ。

ああ。もう!お願いだから!!

思いっきり力を入れて布団を剥ぎたいけど。
もし上に乗ってるのが本当にユタ兄だったらやっぱり布団を跳ねのけた時に転がり落ちたりして怪我をさせたら大変だ。
だから半端な力しか込められない。


「ジェーヒョーン。全くw」

やっぱりユタ兄だ。
優しく僕をからかうような声。

うわーん!
顔が見たい。
早く早く。
もう!もう!!

なんだかちょっと泣きたくなってきた。

「兄。兄!
苦しいです!
うぅー!
僕、起きてますから。」

布団の中でもがき続けて汗が出てくる。
布団の中に包まれたまま何とか叫ぶ。
早く、早くここから出して!
ユタ兄を至近距離で見られるのに。

それなのにユタ兄が。


「ん??あ?
なんだ起きてんのか?
何言ってるのかわかんねぇなw」


僕の声は布団のせいでくぐもって聞き取りずらいのか上に乗っている人物…ユタ兄に伝わらないみたいだ。

早く。本当に早く。
僕を自由にしてください。
顔を見たいです。

寝起きはいつも顔が浮腫んで酷いけど。
そんなのどうでもいい。
どんな顔して僕の事を起こしてくれてるんですか?
あと今どんな状況でユタ兄が僕の上に乗ってるのか確認したい!
ユタ兄が僕の上に乗ってるなんて!

自由にならない体で益々もがき続けるとようやく顔だけ布団を退けてくれた。
明るい光が目に突き刺さる。

「ジェヒョン起きたのかー?」

明るさに慣れない痛い目を必死に凝らしてユタ兄を確認する。

大きくて澄んでる瞳。
優しくて少し色っぽいタレ目でニコニコと僕を覗き込んでいる。

「ユ…ユタ兄。」

やっと見られた。

「おー。起きたか?
早く起きないと…ってお前、顔パンパンだなwww
相変わらず寝起きの顔は酷いなwww」

ユタ兄が僕に乗ったまま至近距離でヒーリングスマイルを炸裂させる。

眼が光への眩しさだけのせいではなくチカチカする。
だけど残念なことに僕の目は確かに浮腫んでいて目がしっかり開かない。

それでもユタ兄をじっくり見たくて目を凝らし続けた。

「ジェヒョン?ん?まだ寝ぼけてんのか?
ほら、起きろって。
おーい。ジェヒョン。」

何これ…。なんか…新婚みたい…。

ユタ兄が僕を起こしてくれるなんて。
前も同室だったけど基本僕は迷惑をかけたくなくて一人で起きてた。
だけど今日は起こしてくれるのはユタ兄。
感激したままじっとユタ兄を見つめる。

「ジェヒョン?」

ユタ兄が僕に声をかけ続けてくれるが返事をするのも忘れてじっと見つめ返す。

「ジェヒョン、起きないとイタズラするぞ。」

ユタ兄がからかうように言う。いたずらっぽい笑顔が物凄く可愛い。
だけど、ユタ兄は未だ僕の上に乗っていて僕は身動きができない。
そして布団にくるまれて暑い…。


でも…イタズラってなにしてくれるんだろう。
僕はくすぐられるのは全然平気だから面白くないだろうし。

「おーい!ジェヒョン?」

「ユタ兄…」

僕の声は盛大にかすれていた。

「お。目覚めてきたか?」

ユタ兄がまたニッコリと笑ってくれる。
ああ。凄く可愛い。

やっぱり僕の頭は寝ぼけていたんだろう。

だから思ったことがそのまま口から出てしまう。

「チューしてください。」

寝起きで顔の浮腫んだイケてない男が何を言ってるんだろうと後から考えると顔から火を噴きそうだ。

でもまだしっかりと働ききってない頭はそれなりに心地よくて。
だからスルリと言えてしまったんだ。

「は?」

ユタ兄が大きい目をさらに見開いてキョトンとする。
ユタ兄の瞳。
くるくると表情が変わって本当に可愛くて綺麗だ。
僕の大好きな眼。

一度言ってしまうと気持ちは更に溢れてくる。
まして寝ぼけてるので歯止めも効かない。

「ユタ兄がチューしてくれたら起きます。」

寝ぼけたままの掠れてて甘えた口調。
可愛い弟のふり。

「はぁ?お前、本当に寝ぼけてんのかよ。
全く。」

ユタ兄が苦笑いをしながら僕の髪の毛を両手でかき混ぜる。

ユタ兄、確かに僕は寝ぼけていて頭はハッキリしてないけどでも…半分本気です。

「ユタ兄、眼が綺麗。
大好きです。ふふ。」

大好き、本当に大好き。

「はは。何言ってんだか。
久しぶりだな。ジェヒョンがそういう甘えたこと言ってんの。

ぶちゃいくな顔してwwwお前〜。」

今度はユタ兄が僕の鼻を強く摘まんだ。
あ。本当に苦しいしちょっと痛いw

ユタ兄は相変わらず僕の上に乗ったまま。
男の体重だし決して軽くはない。

だけど僕の頭に浮かぶのは。

なんで…なんでこんな時に僕の腕は自由じゃないんだろう。
自由だったら僕からユタ兄を抱きしめられるのに。自由に好きにできるのに。

それでもユタ兄にハグしてもらってるみたいなこの体勢も幸せだ。

全くおめでたい頭だ…。


「ユタ兄。早く〜。」

ユタ兄が可愛がってくれるとめちゃくちゃ甘えたくなってふざけて唇を突き出す。

「全くw」

ユタ兄が呆れた笑いをすると全体重を僕に預けたまま僕の両頬を両手で包み込む。

まさかしてくれる?

「おもち〜。あはは。」

ですよね…w

ユタ兄は僕の話を流して顔で遊ぶ。
包み込んだ両手は僕の頬っぺたをムニムニと揉む。
多分すごいブサイクになってる。

子ども扱いはされたくない。
だけど甘やかされるのは大好き。

本当自分でも矛盾してるw

「う〜。兄、やめてください〜。」

「ほら、早く起きないと大変なことになるぞ。」

「だから兄が起こしてください。ちゅ〜。」

「まだ言うか。この寝坊助が。
本当に起きるのか、そんなんでw」

ユタ兄のその言い方に少し期待をしてしまう。
ユタ兄の言う「そんなん」は僕にとっては最上級のご褒美だ。

「はい。起きます。」

「うーん…ん。わかった。」

わかった!?
嘘。本当にしてくれるんだろうか。

ヤバい。嬉しくて顔がニヤニヤしてくる。

「ちゃんと起きろよ?」

「はい♡」

「ちょっと照れるから壁の方向いてろ。」

「はい♡」

本当自分でも情けないが寝ぼけ…いや暑さにものぼせていたんだと思う。
普段ならこの手には絶対引っかからないのに。

もう一人の存在を本当に忘れていた。
油断した直後。



冷たっ!!!



布団の中、いやパジャマの中に手を入れられ放り込まれた冷たいもので一気に覚醒した。
氷だ。

「ユタ兄。ちゃんと抑えててくださいよwww!
ジェヒョン兄、力強いんですから。」

手が伸びてきた方を見るとニヤニヤと楽しそうにドンヒョクが更に僕のパジャマの中に氷を追加しようとしていた。

「わかってるって!
早くしろwww」

ユタ兄まで物凄く楽しそうに僕を全身で抑えようとしがみついている。

もう美味しいとかそういう問題じゃない。
流石に飛び上がる冷たさだった。

「冷たい!!
無理無理無理!!!」

叫んでさっきよりも力を込めて布団を剥ごうとした。
ところが少しだけ空いた隙間からは容赦なくドンヒョクが手を突っ込んできた。

こいつ!

「わー!ユタ兄頑張ってwww」

「お前も乗れ。ジェヒョンの上に。」

待って待って!
二人で乗られたら本当にヤバい!!
阻止しないと。

もう手加減はなしにして全力で布団を跳ねのけた。
その直後。





『ゴンっ!!!!』






部屋に響いた鈍い音。



一瞬僕たちの動きが止まった。
ユタ兄がベッドから転がるどころか。
僕に跳ねのけられて後頭部から床に落ちたのだ。


「わぁ!!ユタ兄!?」

ドンヒョクが本気で驚いた声を上げた。
でもそれに被せる様に叫んだ僕の声は自分でも驚くくらい大きかった。

「っ!?ユタ兄!!ユタ兄!!!
大丈夫ですか!?
ああ、どうしよう。ごめんなさい。
すいません、すいません。」


無我夢中でユタ兄のところに行き声をかける。


自分の声が大きいせいか周りの音が遠くなる感覚。
背筋がヒヤッとした後に指先から僕の全身が冷たくなった。
それなのに変な汗がでる。

僕の口からは謝罪の言葉が出続けている。
でも実際何を喋っているのか自分でもわからなかった。

当のユタ兄は自分でも何が起きたのかわからないという感じで大きい目をパチパチさせた後、すぐに笑顔になる。

「いてて…。悪ふざけしすぎたな。
天誅だな。アハハ。悪かったn…」

そう言って起き上がろうとした。
だけど

「ダメ!!動かないで!!」

タメ語ということも忘れてユタ兄に強く言った。
僕の体は無意識にユタ兄の上に覆いかぶさり守るように両腕でユタ兄を囲っていた。
ユタ兄が驚いたように目を見開き僕を見上げている。

「ユ、ユタ兄。僕何か冷やすもの持ってきます!」

そう言うとドンヒョクが慌てて部屋を出ていく。
ドンヒョクはマンネだけど兄弟も多いし、長男だからしっかりしてる。
任せよう。

「大袈裟だろ。頭はぶつけたけど俺全然…」

「ユタ兄!じっとしててください。」

ユタ兄ののんびりした声を遮るように強い言葉で静止した。
そして、自分の右手をユタ兄の後頭部に潜り込ませて確認する。
…少し腫れていた。

「なんだよ。本当に大丈夫だって。
こんなんちょっとよろけて…」

「ダメです!静かにして。
僕の言うことにちゃんと答えてください。」

自分でも何を言ってるのかわからない。
でも

「頭はボーっとしませんか?
痛みはありませんか?どこかにしびれは?」

そう言いながらもう一度そっと優しく後頭部に触れる。

「だから大丈夫だって。コブくらいw

…おい、ジェヒョン?

お前、震えてるのか?」

ユタ兄が不思議そうにつぶやく。
言われて気づいた。

僕の身体はみっともない位震えていた。

「お前、顔色真っ青じゃん。」

頭を打ったのはユタ兄なのに。
ユタ兄の方が心配そうに僕を見ている。
そしてユタ兄が片手を伸ばして僕の頬に触れる。
いつもならユタ兄がそうしてくれたら胸が高鳴るのに。
怖くて仕方ない。


この優しくて綺麗な兄に何かあったらどうしよう。


もしユタ兄に何かあって一緒に活動できなくなったら。


アイドルを辞めて日本に帰ることになったら。






一生あえなくなったら――――――






目の前が真っ暗になった。


「ジェヒョン?お前、調子悪いのか?
大丈夫か?」

僕の下で頭を打った自分よりも他人を気遣うこの人を。
大きくてタレ目なこの綺麗な眼を瞬かせるこの人を失うことになったら………。




ダメだ。




目の前が見えない。
視界が…ちゃんと見えない。




「…おいでジェヒョン。」


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