幸せは訪れない
□2.それぞれの過ごし方
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満足な夕食を食べ終え、温かな湯で身を清めた鶴丸は夜見に呼び出されて手入れ部屋の隣にある1つの空き部屋へと訪れていた
この空き部屋は鶴丸達刀剣男士が相談して貸し与えた場所であり、後の三日月の部屋となる
鶴丸「入るぜ」
縁側沿いから襖を開けて中へ入る
中はとても殺風景であった
部屋の真ん中には1つのちゃぶ台、最低限の座布団が用意されており、部屋の隅には敷かれていない布団が綺麗に畳まれていた
『呼び出してすまない。これからの方針をもうそろそろ固めないと思っていた。立ち話も難だ。座ってくれ』
鶴丸「おう、失礼するぜ」
襖を閉めた鶴丸は夜見の座っている場所とは対面の場所に席を取る
夜見の左後ろでは当たり前のように三日月が座っていた
『政府からの恩恵が受けられるのは残り1週間。今までのやり方でも構わないが、鶴丸国永にとって僕と会う事はとても苦痛ではないか?』
鶴丸「そうか?」
夜見は人間を憎んでいる鶴丸の地雷を踏み抜き、殺される事ならまだしも
その刀剣男士から笑みを奪う事を何よりも恐れていた
そのため、相手の顔色を窺って会話をするのは得意であっても、相手は神であるから地雷原がよく分からない
夜見は自分の横に伏せてあった2枚の紙をちゃぶ台の上へと置き、それを鶴丸に見せた
『これは簡易な報告書だ。鶴丸国永が僕に伝えてくれる事はこれだけでいい。それに紙媒体での記録のために抜け落ちる事もないだろう』
紙には本当に簡易な報告書が書かれてあった
その日の部隊構成、出陣先、取得物、怪我の具合等の出撃についてが1枚目
2枚目には内番の担当者が書かれてあり、空いている空間にその他と言う項目が設けられている
『その他に関して言えば不具合や備品整備で構わない』
鶴丸「ほー、こりゃかなり簡略化された報告書だ。これは誰でも書けるな」
『出来れば鶴丸国永が責任を持って書いてほしい。個人の名前などはそれぞれに書かせてもいいが、その他は鶴丸国永が自分の目で確かめて記入してもらいたい』
鶴丸「それは分かった。他のヤツに書かせて報告が曖昧になってしまった場合は君が困るからな」
『ああ。この紙は明日より実行してもらいたい。朝餉を取りに行く三日月宗近に持たせるから必ず受け取ってほしい。逆に提出の際は夕餉を返却しに来た三日月宗近に渡してもらいたい。この話しは既に三日月宗近とも相談済みだ』
顔を三日月に向けた鶴丸に、三日月は首をかしげるのを見た
不安にはなったが主命ならばしっかりと動くだろうと信じるた鶴丸であった
鶴丸「そうだな。行き違いになる事もないし、確実に俺の手に渡り、君の手に戻るだろう」
『此方からの話しは以上だ。鶴丸国永からの問いがなければ今回はお開きにしたい』
疑問に思っている事なら色々とある
だが、それは今此処で睡眠時間を削ってまでも聞かなければならない事なのか
鶴丸「...いや、俺からはない。この報告書は俺が持っていてもいいのか?」
『明日の分は構わない。三日月宗近が夕餉の食器を下げた時に渡してくれ』
鶴丸「分かった」
鶴丸は嘘をついた
本当なら聞きたい事が山ほどあったと言うのに、それを聞かずして出てきたのは相手が「人間」だから
「人間」に強い恨みを抱いているこの本丸の刀剣男士は少しでも一緒の空間にいる事を嫌がる、のに
どうしてか、この「人間」の元には何時までも傍に居たいと思ってしまう
鶴丸「じゃあ、俺は戻るぜ」
立ち上がって報告書を手に持つ
『ああ。急な呼び出しに応対してくれてありがとう。今度は前日等に伝える』
鶴丸「おう。じゃあな」
入ってきた場所と同じ襖から出て行き自室へと戻る
月明かりの夜が当たり前だった
この本丸でも再び太陽や月を拝め、水に触れることが出来る喜びには感謝しないといけない
鶴丸はこの景色を変えてくれた審神者に感謝していた
部屋に戻ると太鼓鐘兼定は既に寝ており、燭台切忠光と大倶利伽羅が起きて鶴丸国永の帰りを待っていた
燭台切「鶴さん。よかった、無事に帰ってきて」
鶴丸「よ。遅くなってすまないな」
4人は仲が良く、いつも一緒の部屋で寝ている
少し狭いかもしれないが、それも幸せが勝るためどうでもいいのだ
大倶利「それは?」
鶴丸「明日からの報告書だ。どうやらブラック本丸と言う場所に1度でも認定されてしまうと、政府に細かい報告書を毎日提出しないといけないようだ」
空いて居る布団にドサッと腰を下ろし、持ち帰ってきた報告書を燭台切に見せた
鶴丸「紙に記録として残しておけば忘れる事もなく、円滑に報告書の手が進むようだ」
燭台切「確かに、記憶だけに言葉を覚えさせるのは厳しいからね。しかも彼はまだ新米の審神者。いくら審神者講座を受けていても名前と顔に一致はまだ厳しいだろう。それに紙で記録を残しておけば、もしも間違えた時の保障となるし確認も可能。随分と手が早く、適格だね」