幸せは訪れない
□3.果たすべき使命
2ページ/5ページ
部屋に戻った鶴丸は頭を抱えた
まさか、審神者である夜見が「化け物」だったとは
妖や式神ではない、ましてや付喪神でもない
だが、その身体から溢れるのは間違いなく神のみが所持する力である神気だ
三日月の神気を体内に取り込んでいるのであればいざ知らず、彼は三日月に触れられているだけである
それだけなのに、温かな日差しを連想させるあの清水のような霊気が神気に汚染されるはずもない
絶えない夜見へと疑問に大きくため息を吐き出した
燭台切「どうだった?」
厨の片付けと湯あみを終えた燭台切が部屋に戻る
燭台切「どうしたんだい?」
夜見についての疑問が解決した事にワクワクしていた燭台切だったが
いかにも「問題が増えた」と思わせるような疲労のある青い顔の鶴丸に近寄って座った
燭台切に説明をし、鶴丸は自分で言ってても頭を悩ませた
2人が黙り込んで数分、先に口を開いたのは燭台切だった
燭台切「じゃあ、こうしよう。審神者君には色々な料理を食べて貰ってまずは食事を取る事の大切さを教えよう」
何だかんだと燭台切は何故か夜見が気に入っていた
どうしてかは自分でもよく分からないらしいが、とても赤の他人のようには思えないと言ったのは最近である
鶴丸「それはいいかもしれんが、彼は俺達との接触を極力避けている。俺達の提案をしっかり聞いてくれるからこそだ」
出会って最初の方に鶴丸が頼みにいった事だ
人間を恐れているために刀剣男士へと近づかないで欲しいと頼んだのだ
破られた事は一度たりともない
だからこそ、約束を絶対に守る夜見が今頃刀剣男士に近づく事は
例え指示でも動かないだろう
燭台切「あー、そうだね。確かに」
食事をさせる事への諦めはない
燭台切は考えるが今は妙案も思いつかないために諦めて寝る事にした
明日の朝食を考えながら
一方、鶴丸が去った後
三日月は再び夜見を自分の上に座らせ抱きしめていた
男性、と言うには人間にしてみればかなり軽い体重のために重さをあまり感じない
自分が鍛えている刀剣男士でもあるかと思ったが
何よりも審神者である夜見の体重がない事が問題だった
三日月「主よ。食事は人間にとって大切な行為だ。栄養をしっかりと取らなければ生きてはいけんぞ」
『構わない。それに食べなくても今まで問題なかったから、これからも大丈夫だ』
何1つ解決しない回答に三日月は心の中でため息をつきながら一緒に布団の中へと入る
こんのすけから聞いた彼の過去では、彼はどの「人間」からも「人間」として見られていなかった
「助けたかった」だけだ
それが彼の中にあった最初の親切心だろう
恩は仇となって返り、彼は「人間」である事を否定された
その期間は約10年
施設に預けられた彼に進む事をさせなかった
三日月「主...」
三日月の温もりに包まれたまま、夜見は眠る
きっと「温かい」という言葉を覚えていても、彼は「温かい」の基準が分からないだろう
安らかに眠る夜見の身体を強く抱きしめる
この身体を手放してしまえば二度と触れる事も叶わないだろう
何故か三日月の中で浮上してきた考えであり
何処か実体験のような気がしなくもなかった