動物達は僕の味方

□05.狐面の術師
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グラリと揺れる体育館

天井から照明が落ち、ほんの数センチずれていたがガシャンと音を立てて落ちた

ゴゴゴッ...と地面が唸っている

五条はすかさず氷月を抱き上げ、瞬間移動で体育館を脱出し、その真上の宙に停まる

砂埃と雪を巻き上げ、建物はみるみる内に崩れて行く

まるで、誰かの「精神状態」を表しているように

静かになり、砂埃が収まったのを確認してから運動場に降りる

先程まで立っていた建物とは言えない程までにグチャグチャになっていた

「会いに来てくれたんだね!兄さん!!」

グチャグチャになった校舎から何かが飛び出し、五条の横にいた氷月に飛びついた

反応に遅れた五条は隣を見ると、学ランを着た少年が氷月の肩口に顔を埋めて抱きしめている光景だ

『...な、んで』

その場で固まる氷月は宙に浮いた手をそのままにし、「彼」は嬉しそうに優しく抱きしめている

「兄さん。僕寂しかったんだ。あの時「1人でも大丈夫」だと思ったけど、僕弱かったから「死んじゃった」」

ドクン、ドクン、胸の中心から鳴っている音が氷月の耳から遠くなって行く

「「生きて」たんだ。僕の弟は」宙に虚しく浮いていた腕を「彼」の背中に回す

例えこれで「死んで」も、例えこれで「呪詛師」と言われても、例えこれで「狂ってる」と言われてもいい

自然と次に口から洩れた言葉を、五条は聞き逃す事はなかった

それは「あってはならない」言葉だから

『一緒にイコウ。何処へでも、お前の好きな場所も、今度こそ一緒に』

五条「氷月。それだけはダメだよ。やってはいけない」

「彼」は「呪霊」

恐らく「術師」としても才能があり「死」への恐怖で「開花」し、「呪霊」の身体を媒介に生きている「呪骸」同然の「呪霊」

殺した「呪霊」の身体を「呪骸」として操り、自身は「呪霊」として生きている

複雑すぎてすぐには理解出来なかったが「見た目」は人間の「彼」は「既に死んでいる」事に変わりはない

そして今、氷月がやろうとしているのは「名付け」

「呪霊」の動物を従えるために「名付け」を行い、自分の「式神」へと変える

何らかの方法でコンタクトを取り、そのアクセスポイントから情報を得る

深くまで情報を探り「呪霊の核」を見つけ、そこに触れて「名付け」を行い、成功すると正式な氷月の「式神」として完成する

相性の悪い「呪霊」が居ても一歩的に「式神」にする事が可能であるが、失敗するとその代償は大きく、命に関わる問題になる

五条は興味本位で聞いた情報が此処で役立つとは思ってなく、氷月にそれをやめさせたかった

失敗の代償は自身でも覚えてない程、酷い状態になるらしいからだ

氷月は抱きしめた「彼」に自身の呪力で優しく包み込む

『お前は今日から...ッ!』

「名付け」の最中に邪魔が入ると、その「呪霊」とのコンタクトが完全に遮断されたのと同然

アクセスポイントを完全に失い、コンタクトすら互いに拒絶し合う

そして今「名付け」は「失敗」した

影から飛び出た7匹の式神の手によって

7匹の式神が「アイツだけはダメ」だと目で訴えており、失敗の衝撃で生じた呪力が暴走し2人にダメージを負わせた

「彼」は「祓われて」しまった

「彼」は両腕が無くなり、足から消えるようにしていなくなってく

無残に尻餅をついた氷月は消える「彼」をその目に焼き付けていた

後ろの式神は主人を守るために目の前へ飛び出る

「あーあ、僕も式神にして欲しかったな。そうしたら本当にずっと一緒だったのに」

目尻に涙を溜めた「彼」は優しい笑みを零し、悲しそうに話す

「呪霊」になっても「兄」と一緒にいる事を選び、此処でずっと「待って」いたのだろう

「兄さん。あの時は突き放してごめんね。ずっと守られている僕がすごくみっともないと思ったんだ。だから守られるのが嫌で、兄さんを突き放しちゃった」

『...ち、がう。僕が、僕が此処から逃げ出したんだっ!お前は何もっ!何も悪くないっ!!!』

「兄さんこそ、僕のせいでずっと後ろ指を差されてたんだ。逃げるが正解だよ。欲を言えば僕も連れて欲しかったけど、足手纏いにはなりたくなかったんだ」

五条は初めて理解した、この「兄弟」は「互いに互いを頼る」事で生きていた

どちらかが欠けてはいけない存在、そしてどちらかが欠ければすぐにでも「消えて」しまう存在

今それを、目の当たりにした

「兄さん。今まで守ってくれてありがとう。これからは僕がいないからちょっとだけ心配だけど」

無意識の内に氷月は右腕を伸ばしていた

届かないと分かっていても、最後はこの手を取って欲しかった

あの時、自身の無力さで手放した「手」を

最後はだけでも、掴みたかったのに

身体が動かない分、その眼で「今」を脳に焼き付け、その耳で「今」を寸分の狂いもなく脳に染み込ませる

「兄さんは「1人」じゃないよ」

その言葉を最後に、氷月の「弟」は消え去った
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