動物達は僕の味方

□05.狐面の術師
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あれから1ヶ月が経つ

意識を失った氷月は五条にしっかりと回収されたが、「名付け」の反動で身体が思うように動かなくなった

任務先から帰った翌日には「呼吸」さえも止まっていた

「精神的なダメージ」なのか「名付けの代償」なのか分からないが、五条は氷月の唇に自身の唇を重ね、呼吸を思い出させるようにして何度も息を吹き込んだ

大きな咳と共に呼吸が戻れば一時の安心を、再び止まっていれば同じ行為を1日に何度も行った

最初の一週間は目を離す事すら危うかったが

今では呼吸も正常に戻り、後は意識の回復を待つだけであった

不謹慎にも五条の作戦は完成してしまった

北海道の任務が始まる2ヶ月前、氷月の白い服を預かった時から始まっていた

あの時「五条悟の連れである白川氷月」を「呪術師」として呪術界に登録し

今はまだ術師として未熟故に個人的に教育をしているため、時期を見て任務を任せるようにしてあった

そして「狐面の術師」は何処か時期を見て「消息を絶とう」としており

今回の北海道任務の報告書では「乱入した狐面の術師の特級呪霊との戦いの末、命を落とし、遺体は無残にも消え去ってしまった」と表記して提出した

最初こそ怪しまれたが「狐面の術師」の存在を公にしなかった事で、すぐに上層部も信じてしまった

電話で告げられた結果に口元のニヤケは止まらなかった

『......』

未だベットで眠る氷月の頬をゆっくりと撫でる、反応は何も返って来ない

鬱陶しそうに眉を寄せる事も、身を捩る事も、腕で払おうとする事も

何も返ってこない

五条「晴れてようやく氷月の名前が口に出来るのにな...」

「狐面の術師」として五条の傍に居た時は「氷月」の名は使えず、ずっと「お面さん」と呼んでいた

だからこそ「狐面の術師=白川氷月」とはなる事がない

「名前」も「呪力」も「術式」も、何もかも公開していないからこそ

憶測でヒットしてもそれが必ず「大当たり」とはならない

せっかく公に名前を呼べるのに、その期会がない事を残念に思っていた






数日後、氷月は目覚めた

日も上りきってない、辺りが薄暗い時間に目が覚めた

上体を起こす、隣には「いつも」五条が寝ており、今も寝ている

熟睡しているの分からない

カレンダーのない部屋、ベット脇にある机に五条のスマホがあり、画面を付けると「11月2日」と表記されていた

昨日は何をしていたのか思い出すも「五条がしがみついて泣いていた」事しか覚えていない

ボーッとする頭の中、その日の日付を思い出す

あの時は確か「9月5日」だったはずだ、と

途中の記憶が抜け落ちている、と言う事は

「名付け」が失敗した衝撃で「記憶」が抜け落ちている事を瞬時に理解した

しかも「抜けた記憶」は忘れてはいけないものだったのも覚えているのに「内容」は思い出せない

思い出せない記憶に苛立ち覚え、ベットから抜け出して「自分の寝室」で何か手掛かりがないか探し始めた

その数時間後、身体の寒さに身を震わせ朝日が昇ったのと同時に五条が目を覚ます

五条「氷月?...!」

隣の温もりがない事に驚き飛び起き、すぐさま寝室から出る

向かう先は1つ、氷月の寝室

足元が余裕で見える程度の明るさの部屋の中、五条はノックもせずに扉を開け

五条「......」

寝室の惨劇を見ていた

部屋は荒らされたようにグチャグチャで、その部屋の真ん中で背を向け力なく座り込む氷月がいた

五条は正面に回る

無表情の顔、嗚咽を零す事無く流れる涙、抜け落ちたようなその姿に「壊れた」事が分かった

『悟、見つからない。見つからないんだ。あの時の記憶がないんだ。なんで、なんで?』

今回の代償は「記憶」、「大切な記憶」であった

「生きる事に必要」な記憶、「忘れていけない」記憶が抜け落ちた

「生きる事に必要」な記憶では身体の機能を失っており、度々止まる呼吸がそれだと分かり

きっと「忘れてはいけない」記憶は北海道任務の事

五条はそれと当時に「賢いが故に「名付けの失敗」で記憶を失っている事を理解している」と分かってしまった

しゃがみ込んで優しく抱きしめる、ちょっとだけ熱い身体を抱きしめる

五条「そうだね。僕も君を見つけた時は肝を冷やしたよ。倒れていたから」

優しい嘘を与えても氷月は賢いからすぐにこれが嘘だと分かる

だけどそれを言及するだけの「記憶」を持ち合わせていなかったから、何も言えない

五条「大丈夫。いずれ思い出すよ。それまでは一緒に居よう」

『...悟。助けて』

「壊れた」氷月は目の前の「友達」に縋りつく

『せめて死ぬまでに、思い出したい』

「依存先」が変わった、それが「五条悟」になるのは自ずと分かっていた

五条「いいよ。手伝ってあげる。思い出した時、僕に報酬をくれる?」

『うん。なんでもいいよ。命でも、何でも、好きなものを、好きなだけ持っていって』

五条「本当に?」

『だって僕は何もないから。五条の欲しい物をあげる』

言質はとった、これで氷月が「死ぬ」未来が消え去った事に

五条は不敵に笑みを零した
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