毎日楽しく団子を食べよう

□6.途切れた記憶
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太宰sid



異能特務課から依頼を受けて1ヶ月

氷月君が見つけた映像を最後に、彼らは息を潜めた

きっと、盗んだ異能力の中に目的としていた物が見つかったのだろう

そうでなければ盗賊をする意味がなくなる

『周辺1キロに怪しい人影は映ってない。と言っても調べられたのは夜の時間だけだけど』

出社してすぐに、彼は半日をかけて探偵社の近くの監視カメラで夜の様子を調べる

早送り等で見ている時間は少ないものの、その少ない時間で消費される集中力は計り知れない

......彼も、黒河も

集中力は並外れにあった

普通の人であれば5分と持たない集中する仕事を難なくこなし、毎日こなしてた

最近になって、氷月君が黒河を被ってきてしまう

黒河に思いを伝えられなかった事には大きな後悔があるが

その兄である氷月君と姿を被らせるのは間違っている

分かっているのに、分かっているのに

重ねてしまう



あの時、最後の彼の姿を見送った時

彼は私に何かを言っていたはずだ

思い出せないのではない

思い出したくないのだ

守れたはずの存在を、傍に居てほしい存在を

少しだけ目を離した瞬間に、居なくなってしまったから

そんな惨めな自分を受け入れる事も出来ずに

私はあの時の記憶から目を逸らし、耳を塞ぎ、その場で立ち止まっていた

敦君を助けた事によって私は忘れようとした

「守れない者はいない」と

しかし、それはどうだ?

実際、私は敦君に最後を任せてばかりの頼りない先輩だ

あの時も、今も

私は変わっていない

――変わっているよ。

太宰「!」

夢の中、私はいつも通り休憩と言いながらソファで寝そべっていた

気づいたら夢の中で

私は桜が満開な川辺で立っていた

――太宰は変わったよ。君自身が気づいていないだけでちゃんと変わっている。

聞き覚えのある声、イヤ、違う

待ち望んだ、聴きたかった声

幅の広い浅瀬の川の中

その風景とミスマッチな漆黒の彼がこちらを見ていた

太宰「黒河...」

憎たらしい中也からプレゼントされた黒いポークパイハット

スラリとした体系が目立つような黒いロングコート

黒いワイシャツ、黒いネクタイ、黒いズボン、黒いブーツ、黒い手袋

マフィアらしい黒一色の姿である

短い髪はサラサラと風に揺れて、蒼い双眼は海のように澄み渡っている

――キミはちゃんと変われているよ。大きな違いは、分かっているだろう?

私の前でしか見せない柔らかな笑み

私が、変われている?

――マフィアに居た頃は、人を殺すのに躊躇がなかった。「命令だ」「手を出した」「銃口を向けた」それだけでキミは殺していた

そうだ、私は殺していた

だって、私は私を守るためでもあり

生きるためにしてきた事だったから

小さかった私は殺しをして自分を守り、正当化してきた

「殺らければ、殺られる」と

――それが今はどうだい?人々を助け、銃口を向けられても平気だ。前の手が早かったキミとは違う

太宰「私は...」

一歩前に踏み出た

サクッと草を踏む音が聞こえ、強い風が吹き荒れた

――それでいいんだ。キミはそれでいい。織田作に言われたからじゃないんだろ?もう、殺しは面倒だったんだろ?

大切な友人が駒にされて、私も平気ではいられない

だから逃げ出した

ポートマフィアと言う組織から、幹部と言う立場から

殺しから逃げたかった

――キミは1人じゃない。あの時とは違う。多少感情は欠落してしまったが、ちゃんと笑えるようになったじゃないか

太宰「ねえ、黒河」

――ここで会うのは最初で最後。太宰、俺と氷月を殺せ

太宰「!」

ピューと吹き荒れる風がその時から止まった

嘘のように静かになり、彼の声が嫌でもよく聞こえるようになった

――世界を救うためにはここで俺を、向こうで氷月を殺さなければならない。彼の異能力は、強すぎるが故に異能力に殺されているんだ

太宰「私は...、私は氷月君の事が好きだ。それは、やりたくない。他に、他に彼を救う方法は...!」

黒河は下を向いていた

――......可能性は1つ。依存先を変える事

太宰「依存、先?」

――氷月は、死んだ俺に依存している。俺が居ないからこそ、過去の俺に依存している。その依存先をキミに変えれば、可能性は広がる

「だから...」そう聞こえた時

急な痛みと共に目の前が真っ白になった
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