毎日楽しく団子を食べよう

□9.残された者
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太宰sid



彼を取り戻し、敵のボスの捕獲に成功した

ボスは異能特務課の牢獄に入り

今回の経緯や計画をじっくりを聞いている様子だ

非協力的だった人々は彼が飲んだ薬で肉体労働をさせられていたようで

精神的に不安定な者は精神病院や通院で治療していた

氷月君の場合

異能を酷使した事で内臓の損傷が激しく入院

今では落ち着いて眠っているものの

数日前までは呼吸器なしでは生きられない体だった

だが昨日、ようやく回復の兆しが見え始め

容態も安定した事で辛い呼吸器から外され

自由に息をすることが出来るようになった

太宰「ねえ氷月。もう1週間経ったよ」

あの酷い2日間を見た後

この氷月君のいない1週間は酷く寂しかった

仕事はいつも以上に進んでいないし

君の事が頭から離れない

社長から彼が目を覚ますまでここでの仕事を許してくれた

今は彼を横目に見ながら捕まっていた空白の1週間の記録を書いている最中だ

太宰「氷月。私は君を殺さない。生かして、幸せにしてあげよう。でないと、君のやった事を「許して」しまうよ」

「許さないで」と言った弱々しい彼の姿

いつも団子を片手に仕事をして

偽りだったし、心の底から笑ってはいなかったが

あの夜に見た微笑みは誰よりも柔らかく優しい表情だった

目の奥が言っていた、私に向かって何度も言っていた

「助けてくれ。助けて」と何度も

分かってたいのに、その手を掴んであげられなかった

太宰「キミは家族を殺してしまった自分を一番許せなかったんだね...」

出会った時よりも長くなった前髪を払う

病室の窓は空いているために横浜の風が入り込む

初夏の今では本当に涼しい風だ

まだまだ此処で眠っているのであれば

夏になったら窓が開けられなくなる

暑くてエアコンを入れてしまうから

太宰「?」

病室の扉から控えめなノック音が聞こえた

?「異能特務課です。入ってもよろしいでしょうか?」

太宰「開いてるよ。安吾」

声を聞いただけわかる

異能特務課の参事官補佐、坂口安吾

来た目的は、分かってる

扉はスライド式で静かに開く

坂口「お久しぶりです。太宰君」

太宰「ああ、久しぶりだよ。安吾」

DEADAPPLEの事件以降、首謀者としてよく聞かされたよ

安吾は病室に1歩踏み入れるとすぐさま扉を閉め

私が勧めたパイプ椅子に座った

坂口「彼が、白川氷月さん、ですね」

太宰「そうだよ。1週間眠っているよ」

坂口「太宰君。私が此処に来た理由は、分かりますよね?」

太宰「まあ、いつか来ると思っていたし、彼が手紙でも送ったんでしょ?」

坂口「ええ。手筈は全て整っています。彼の異能力は殺傷能力が驚異的にあります。ポートマフィアの幹部や遊撃部隊の隊長、攻撃系の異能者にとっては最悪と言われている存在です」

太宰「私が彼の移動を認めなかった場合は、どうするんだい?」

彼は望んだ

もしも生きてしまった場合

裏切った我々の事を思って自首しよう、と

だからこそ

私たちから離れて孤独になろうとしている

坂口「その場合を、彼は望んでいるでしょう。しかし、私はあくまでも彼を「閉じ込めて」置いた方がいいと思います」

太宰「【暴走】すると思っているのかい?私がいるのに」

坂口「もしもの場合と言う最悪の事態を考えての事です。彼はあまりにも脆すぎる。それでいて最悪な異能力を持ってしまった」

彼の異能力は肉体的に限界がある

だからこそ、肉体改造は出来ても

人を殺す事に大きな罪悪感を持った

そのため、彼は言っていた

結果的に「異能力を使えば、心が消える」と

でも、それ以前に、私は思ったのだ

太宰「織田作を守れなかった時。それ以前に黒河を失った時。私は私を本気で殺しかけた。けど、それでは愛していた黒河が戻ってくるはずもない。それに、幹部の仕事も忙しかったからこそ忘れていたが、あの時の私は部下の織田作よりも、情報員の安吾よりも、事務員の黒河よりも、誰よりも弱かった」

坂口「太宰君...」

太宰「私はいつも、守られてばかりだった。それを思い知らされて、とても屈辱的だったよ。こんな、自分の異能力を嫌う子に守られるなんて、過去の私を見ている気がしたよ」

「異能力を無効にする異能力」

こんな異能力、役に立つはずがないと思っていたし、嫌いだった

けど、実際はどうだろうか

今はこの異能力を持ってとても感謝をしている

中也の汚濁も、敦君の暴走も止める事が出来て

尚且つ、氷月自身が取り込んだ異能の薬までも無効にして

今の私はそれだけで十分だ

太宰「ねえ、安吾。彼の身を、私に預けてくれない?」

坂口「はぁ...、どうせそう言うと思っていましたよ」
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