いならなかったモノ

□02.五条の助手
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黒塗りの車の中、後部座席にて五条は太腿にある小さな頭を撫でていた

荒い呼吸と小粒の汗を額に浮かせながら眠っている氷月の頭をただただ撫でていた

伊地知「あの...その方は...」

車の運転手を任されてる伊地知は五条の連れて来た少年を気にしている

会った事ない、訳はないが

1度や2度程度の付き合いだからこそ、あまり覚えていないらしい

五条「僕の助手だよ」

伊地知「え!?」

予期せぬ回答に伊地知は思わずバックミラーで五条の顔を確認する

ニコニコと何かを考えている五条が映り「またとんでもない事する、この人は」と心の中で冷や汗を掻きながら呟いた

伊地知と合流する前にフードを被せ、髪は服の中へ

例え夜に「拠点」へ着いても「ただ背が曲がった五条が通った」と認識される程度だろうと

もし、背の存在に気づいた時は「大きい荷物」と誤魔化しも効く

と、言っていた事を思い出した

本当にこれを考えた「彼女」は素晴らしい思考回路を持っている思ってる

今の氷月から呪力が感じられない

初めて会った時もそうだったが、氷月は間違いなく「呪術師」なのにも関わらず

その身から呪力を感じた事がない

「呪力」を使う時に、必要な分だけ身体から溢れる

まるで「コルクの付いた瓶」のようだと思っている

本当に不思議な子だ

考えれば考える程面白い子を拾ったと、満足げに笑顔になり

その笑顔を確認している伊地知は冷や汗が止まらなかった



「拠点」の入り口で別れた伊地知はまた何処かへ向かい車を走らせる

背中の重みは変わらずに、ただ五条の鼻を「彼女」と同じような匂いが擽る

風が吹けばそれはまた濃く匂い、五条の中の何かが少しずつ満たされていく感覚であり

同時に「彼女」は本当にもう居ないのかと絶望もひしひしと感じていた

背で眠っている少年を起こさないように歩く

不幸中の幸いなのか誰に会わずに目的の場所まで到着した

家入「あら?生きてたの?」

五条「やあ」

「保健室」と書かれた部屋へ入ると、夜の晩酌をしようとしていた家入が酒瓶とツマミを出した所

ノックもせずに入って来た予期せぬ人物に家入はため息を出し、酒瓶は机の下にしまった

家入「アンタが此処に来るなんて珍しいじゃないの?今日はどんなお土産?」

五条は遠方へ出向くと必ずと言って良い程、毎回土産(甘味)を買ってくる

甘味が苦手な家入の少しの楽しみでもあるが、それ以前にこの時間の「保健室」にどんな用事なのかが気になった

五条「今日はお土産は買い損ねたんだけど、その代わりにちょっと頼み事があるんだよね」

家入「怪我でもしたの?五条が?」

五条「違う違う、怪我をしたのは僕じゃないよ」

いつもより何処か雰囲気が軟らかい五条に家入は疑問符を浮かべ

五条は近くのベットに座っては、背負っていた「荷物」を寝ころばし

五条「「彼」を治療してくれないかな?」

と普段よりも柔らかく微笑んで言った

「仕方がない」とでも言いたそうな家入は立ち上がり、フードを被っている人物を無視して部屋の電気を付け

ベットに座っている五条を横目に、ベットに眠っている人物を見た

家入「!、氷月!」

顔を見た瞬間、目から涙がポロポロと零しながら家入は崩れ、その場でペタンと座り込む

その様子を見ていた五条は補足のように、少年を紹介する

五条「彼は「夜回氷月」。東京でアパート暮らしをしているんだけど、偶々僕が見つけてね」

涙を零す家入は五条の話を真面目に聞いていた

「呪力が感じられない」「2級呪霊なんて朝飯前」「戦いの中で進化」「特級を祓った」等々

出会ってから今日までの事を色々と話し、此処最近上機嫌な様子の五条に家入も納得した

家入「じゃあこの怪我は特級との戦闘で出来た怪我ね」

五条「そうだよ」

家入のデスクで座ってチョコレートを食べる五条

そして上半身を裸にし怪我の個所を確認する家入の姿は本当に「保健室の先生」の姿で

今だ見慣れないその真剣な「先生」っぷりに吹き出しそうになるのを堪える

家入「でも私の「反転術式」って効くのかしら?あの子は「体質」で「呪力」があまり効かなかったじゃない?」

五条「それも踏まえてやって欲しいのさ。僕は相手に「反転術式」が使えないからね。そこは「信頼している先生」にやって貰った方が確実じゃないかな?って」

家入「いいわ。私も気になるし、何よりもこの子の傷が治せるなら、やるわ」

家入の「反転術式」はいつも見ても、誰の「反転術式」を見ても美しいと思っている

五条は家入の反転術式で少しずつ腫れの引いてく氷月の左腕と

所何処打ち身をしている身体が少しずつ治るのを見て、心の底から安堵のため息が零れる

やがて術式が終わると、家入はもう一度彼の身体を確認した

本当に治っているのか、と

家入「治ったわね」

五条「そうだね」

「少女」は「呪力が効きにくい体質」を持ち合わせており、上手に呪術を発動する事が出来なかったし、「反転術式」などの相手に掛けてもらう呪術も殆ど効いてなかった

比べて「少年」は一般人のように普通に治ったのだ

家入「彼をどうするの?」

五条「一先ずはアパートで野放しになんて出来ないからね。僕の家に連れて行く。彼がどのくらい眠るのか分からないけど、今のうちにやれる事はやるさ」

「またお土産買ってくるから」と少年を背負った五条は手を振って保健室を後にする

家入「私、甘い物以外がいいな」

机の下から取り出した酒瓶

だがその酒瓶は一回り程小さくなり、期間限定の高級な日本酒に変わっていたが

特に気にせず、封を開けて飲み始めた
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