いならなかったモノ

□03.初めての対人
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2日目の休暇

昼には体調の良くなった五条はベットから抜け出し、ベットに腰かける

スマホを見れば、大事にしてくれた家入が休暇を1日もぎ取り五条の休暇が1日増えた

お礼の言葉を打ち込みメールを出せば、「仲良くね」と返信が来た

それを見て「当たり前だろ」と呟き、眠って小さくなってる氷月を持ち上げ、肩に薄手の毛布を担いでリビングのソファに座る

テレビをつけ、自分の上に氷月を置き、毛布を掛けた

昨日のあの状態は、やばかった

普段漏れる事のない、感じ取れない呪力が溢れ出し

それに危機感を覚えた五条と家入がとっさの判断をした

彼の大きな負の感情が「自らの無力」だなんて

誰が気づくのだろう...

五条「あの時も、そんな感じだったな...」

確か...そう、2年になって夏ぐらいに一緒に行った任務だ

氷月と出会ってから五条は6年前の事を何度も思い出していた

彼女がいなくなった3年間は忘れるように呪霊を祓っていて、今もそれは変わらないのに

どうしてか過去の事を思い出す

モゾモゾと動き出す氷月を見る、不安げに揺れる眠そうな目が何処かを見つめていた

五条「おはよう、氷月」

『...おはようございます。五条さん』

今までの「素直で優しい」彼がいなかった

本当に自分の犯した罪に縛られた、そんな感じの寂しそうな声

互いに話す事はなく、氷月もただじっとしていた



13時を過ぎる頃、五条は「お腹が減った」と言い氷月を開放する

五条「何が出来る?」

『昨日の晩御飯の予定だったカツ丼』

五条「じゃあお願い」

『了解しました』

その言葉と共に動き出す、たった1日で機械人形のようになってしまった

出会った時よりも、酷く距離を感じた

それだけ昨日の事が彼にとって衝撃的だったのだろうと予測が出来る

五条「昨日は僕も悪かった。君の「常識のなさ」と僕の「興味本位」で、互いに酷い目に会ったね」

反射して映し出される自分の表情と台所を忙しなく移動する氷月

『本当に酷い目に会ったのは五条さんだけです。僕は酷い事をした側です』

冷蔵庫から取り出される豚肉は既に料理済みで、後は油で揚げるだけ

ガスコンロに油を準備して火を点ける

氷月は油が温まるのを待っていた

五条「それは違うよ。君も酷い目に会ったし、僕も酷い事をした。これはお互い様」

『...僕は、ちょっと怖かったです』

五条「?」

振り向いて見ると、顔を下に向け、力のない声が聞こえる

『五条さんが死んでしまうのが、僕にとって一番怖いです。昨日家入さんに教えていただいて、すぐに「怖い」と感じました』

ああ、この子は今頃「恐怖」を覚えたんだ

今まで怖い呪霊は何十匹と見て来たのに、なのに今、僕が死ぬだけで「怖い」だなんて

五条は立ち上がり、氷月に歩み寄る

膝をついて優しく後ろから抱きしめる

『僕は恩人を殺してしまうかもしれない。そう思った瞬間、自分の存在価値を失いました。しかし昨晩五条さんが「いてくれるだけでいい」と言ってくださって、正直とても嬉しかったです』

「必要とされる事が」ポタと五条の手に温い液体が落ちる

五条「ねえ氷月。昨日僕が君にお願いした事、覚えてる?」

コクリと頭を上下に振る、「良かった覚えてくれて」

五条「僕からの我儘を聞いて貰ったんだ。氷月の我儘も聞きたいな」

ブンブンと横に頭を振る氷月、そんな事が読めていた五条

五条「お願い」

その一言だけで、氷月は「五条さんが、死ななければ」と答えた

五条「分かった。よし、これから一緒に常識を学ぼう。そうすれば今回のような酷い事はもう起きないよ」

『ホント...?』

五条「ああ本当だとも。一緒に学ぼう。さて、氷月ご飯まだ?」

『今から揚げます』

五条「うん。待ってる」

テーブル席についた五条はいつも通りに氷月を見る

氷月も袖で涙を拭い、目の前のカツを見て

「五条さんから貰った大切な言葉、増えた」その事に頬を緩ませ、微笑んだ

五条「(良かった。あの時よりも、近づいた)」

五条は胸を撫で下ろし、同時にあの時の彼女にどうして言葉を与えられなかったのか

過去の自分は今すぐにぶん殴って、彼女と共に歩きたかった

『五条さん、何杯食べますか?』

五条「とりあえず3杯かな?」

『分かりました』

五条「!」

振り向いた氷月の表情は分かるように明るかった

「嬉しい」と表情がこんなにもハッキリと分かるなんて

それにつられて五条も笑顔で返した
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