いならなかったモノ

□04.出会った事の話
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五条「ねえ氷月」

『はい』

ソファに座る五条は、いつもよりも優しく話しかける

五条の上には大人しく「抱き着かれてるぬいぐるみ」役の氷月がいた

五条「前から思っていた事、話してもいい?」

『五条さんがよろしければ』

五条「えー、興味ないの?」

『うーん、僕には興味と言うのがあまり分かりません。すいません』

五条の悪ふざけに真面目に付き合う氷月

それでも五条は話したかった

「夜回氷月」が「白川氷月」に似ている事を

五条「聞いてくれる?」

『はい』






東京都立呪術高等専門学校

4月に3人の生徒が入学した

御三家の夏油、五条、反転術式が使える家入の3人だ

3人は現校長である夜蛾の教え子である

そんな3人は6月に入ってすぐ、1人の生徒が入って来た

いつも通りに机を並べて座る3人に、夜蛾は女子生徒を連れて来た

明らかに小学校低学年の身長の少女と呼べる

夜蛾「今日からお前たちと共に呪術を習う、「白川氷月」だ」

『白川氷月です。未熟者ですが、よろしくお願いします』

一言で言えば、可愛かった

五条は初対面の印象はそれだった

黒い制服に黒のフード、フードの後頭部には5センチの横線が入っており、そこから太腿まである水色の髪を出していた

幼さMAXだが、言葉や行動は誰よりも大人なのに、時々子供っぽい

女性のくせにズボンを履いているのが気になった

なんとも不思議な人

家入「どうして来たの?」

『森の中で呪霊に追いかけられて、気づいたら夜蛾先生に助けられてた。そこで訳を話したりしたら「君には呪力が扱える」って言われて此処に来たの』

夏油「まるで悪徳セールスマンだなぁ...」

『僕もそう思った!』

多くを話す訳でもなく、それでも笑顔を絶やさず、仲良くしていた

家入「家の人はなんて言ってたの?」

『「いいよ」って』

五条「かるっ!」

素直な言葉がどうしても出るくらい、不思議な人だった

新入生の紹介を兼ねて校内探索をしていると

2年の先輩の話声が聞こえた

「あの子よ、あの子」

「ああ、夜蛾先生が拾って来た変な子ね」

「一般の子みたい」

人間は噂好き

氷月はただ夜蛾先生の紹介で校内見学をしているだけなのに、変な噂が後をたたない

「呪術使えないんだって」

「え?マジ?」

「じゃあ何しに来たの?」

使えないから学びに来たんじゃないの?

そんな言葉を発するのも面倒になって、ただただ後を付いて行き、夜蛾先生の見学を見ていた

実際、呪術を使っての授業で彼女は本当に呪術が上手く使えず

何度やっても、どんな工夫をしても、どんだけ努力しても

何も変わらなった

こん時の俺は「期待外れ」の一文字が強く出され、「雑魚」に興味は一切なく

教室で会っても、寮で顔を会せても、街中で偶々会っても

「期待外れ」からくる悪口ばかりを言っては、家入や夏油、夜蛾先生に何度も怒られた

7月に入った中頃、1年生が初めて駆り出された

くじ引きで決まったペア分け、夏油と家入、五条と氷月の2人ずつ

五条はただ「足を引っ張るな」と告げれば、笑顔で「努力するよ」と返って来た

夏油と家入には冥冥と言う先輩呪術師が、五条と氷月には夜蛾先生が着いて来た

五条「此処が?」

『へー、確かにいそう』

夜蛾「油断するなよ。油断した時には肉塊になっているからな」

五条「それ死んでない?」

『案外「意識」だけはあるかも?』

巨大なビルが建つ予定の建築現場に数々の不思議が起こる事で調査が始まった

最初は書類が破かれていた程度であったが、最近では重機の異常、前日に行方不明となった者が地面から出て来た

安全のため重機は一度現場から離れた場所に移動させ、呪術師以外の一般人は現場から5キロ離れた場所で待機していた

建築が始まって半年が経つも、そのいくつかの事例でよく工事が止まっており

地面は凸凹で歩きづらいのに、視界はとてもクリア

「た、たすけてくれぇ...!」

夜蛾「!、人がいるのか!」

夜蛾先生の言葉に3人で走り出す

最低な足場と最高の視界

前には3メートルを超える巨大な呪霊が1匹に、工事現場の作業員男性が1人襲われていた

左足の太腿から血を流しているため、怪我で動けないのだろう

五条「クッソ!」

五条の舌打ちと同時に氷月が誰よりも早く走り出した

五条「おい!」

遅れて反応し、腕を伸ばすも

既に届かない距離で、夜蛾先生は止めない

毛玉から細い手足が2本ずつ生えた呪霊は拳を握りしめると、その男性を潰すかのように振り下ろす

男性と拳の間に氷月が入った

五条「止めないのかよ!」

2年の噂に惑わされていたのは、あの先輩達だけじゃなく、俺もだった

呪力が使えても呪術が使えなきゃ、あんな呪霊とは戦えない

当時の俺はとても未熟で、「呪術こそが全て」だと思ってた青臭い時代で

彼女が「雑魚」から「強い」に変わった瞬間でもあった

夜蛾「問題ないだろう」

彼女は格闘技における何かの構えを取ると、その左足に呪力が込められ

『ハッ!』

気合と共にその拳を回し蹴りで跳ね返した

五条「は?」

夜蛾「氷月は特殊な呪力の使い手でな。手足になら呪力を回し、呪霊を肉弾戦で祓えるんだ」
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